MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

弱いつながり 検索キーワードを探す旅(東浩紀)

『弱いつながり 検索キーワードを探す旅』(東浩紀

 情報を自由に検索しているつもりでも、実は全てGoogleが取捨選択した枠組みの中。ネットを触っている限り、他社の規定した世界でしか物を考えられない世界になりつつある。その世界から飛び出すには、Googleが予想できない言葉で検索すること。そのためには、身体を移動すること、旅、弱いつながりが必要。そこにおける体験が検索ワードを広げてくれる。そんな発想を豊かにし、誰に縛られるのでもなく、自分で見つけ、考えていくために必要なことがまとめられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯強いネットと弱いリアル

・人生の充実のためには、強い絆と弱い絆の双方が必要。あなたを深めていくためには、強い絆が必要。しかしそれだけでは環境に取り込まれてしまう。ネットは環境を強くするメディア。どこで弱い絆を、偶然の出会いを見つけるべきか。それがリアル。身体の移動であり、旅。

 

◯旅は「自分」ではなく「検索ワード」を変える

・身体がどういう環境にあるかで、検索する言葉は変わる。国境を越えると、言語も変わるし、商品名や看板を含めて自分を取り巻く記号の環境全体がガラリと変わる。だから海外に行くと同じようにネットをやっていても見るサイトが変わってくる。

・ネットを離れリアルに戻る旅ではなく、より深くネットに潜るためにリアルを変える旅。

・ネットには情報が溢れているということになっているけど、全然そんなことはない。むしろ重要な情報は見えない。なぜなら、ネットでは自分が見たいと思っているものしか見ることができないから。

 

◯仕事で求められるのは適切な検索力

・言語の壁は、受動的に「読む」ことについては低くなりつつあるのかもしれない。しかし、能動的に「探す」ことに関してはまだまだ高い。

・特殊な経験や知識よりも、顧客の要望に応じていかに適切に検索するか、その能力ことがビジネスにおいて重要になっている。

 

◯軽薄で無責任な「観光客としての生き方」

・観光客は無責任。けれど、無責任だからこそできることがある。無責任を許容しないと広がらない情報もある。

・世の中の人生論は大抵2つに分けられる。一つの場所にとどまる「村人タイプ」と一つの場所にとどまらない「旅人タイプ」。勧めたいのは、第三の「観光客タイプ」。村人であることを忘れずに、自分の世界を広げるノイズとして旅を利用すること。度に過剰に期待をせず、自分の検索ワードを広げる経験として、クールに付き合うこと。検索とは一種の旅。

 

◯移動にこそ欲望が詰まっている

・移動時間にこそ旅の本質がある。情報はネットにいくらでもあり、Googleストリートビューで現地と同じ風景が見れる。違うのは情報ではなく時間。仮想現実での取材の場合、そこで「よし終わった」とブラウザを閉じれば、すぐに日常に戻ることができる。そうなるとそこで思考が止まる。

・身体を一定時間非日常の中に「拘束」すること。そして新しい欲望が芽生えるのをゆっくりと待つこと。これこそが旅の目的である、別に目的地がある「情報」はなんでもいい。

・「ツーリズム」(観光)の語源は、宗教における聖地巡礼だが、そもそも巡礼者は目的地に何があるのか全て事前に知っている。にもかからわず、時間をかけて目的地を回るその道中で、じっくりものを考え、思考を深めることができる。観光=巡礼はその時間を確保するためにある。旅先で新しい情報にである必要はない。出会うべきは新しい欲望。

 

◯「弱さ」こそが強い

・強い絆は計画性の世界。だから計算高い、慎重な人は、強い絆をどんどん強めることを望む。統計からわかることは、もし何回も何回も人生を生きることができるとしたら、確率的にその選択肢が最も大きいよ、という話でしかない。1回限りのこの人生については、統計は何も教えてくれない。

・他方で弱い絆は偶然性の世界。人生は偶然でできている。

 

 どうしても自然体で過ごしていると環境と経験の中で自分の思考は凝り固まってしまう。どうにか知見をジャンプできないものか。「知の探索」と「知の深化」という両利きの経営を個人レベルで当てはめたときに、どのように「知の探索」(幅を広げる)を行えばいいのか。そのヒントになる一冊だと感じました。

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