MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

慈悲(中村元)

『慈悲』(中村元

 高野山大学のレポート作成のために読んだ一冊。友愛の念「慈」、愛憐の情「悲」。生きとし生けるものの苦しみを自らのものとする仏の心、呻きや苦しみを知る者のみが持つあらゆる人々への共感、慈悲。仏教の根本、仏そのものとされる最重要概念の一つです。本書は、仏教の主要概念である慈悲についてまとめた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯慈悲の語源

・「慈」:この原語は語源的には、「友」「親しきもの」を意味するmitraという語からの派生語であって、真実の友情、純粋の親愛の念を意味するもの。

・「悲」:パーリ語のmetta。インド一般の文献においては、「愛憐」「同情」「やさしさ」「あわれみ」「なさけ」を意味するもの。

 

◯慈と悲の違い

・南方アジアの上座部仏教においては、「慈」とは同胞に利益と安楽をもたらそうと望むこと」。「悲」とは「同胞から不利益と苦とを除去しようと欲すること」であると註解している。

大乗仏教において、ナーガールジュナは「慈とは衆生を愛念することに名付け、常に安穏と楽事を求めてそれをもってこれ(衆生)を饒益す。悲とは、衆生を愍念することに名付け、五道の中の種々の身の苦と心の苦を受くるなり」「大慈とは一切の衆生に楽を与え、大悲とは一切の衆生のために苦を抜く。大慈は喜楽の因縁を衆生に与え、大悲は離苦の因縁を衆生に与う」と言っている。

・かかる解釈はその他の諸経論にもあらわれている。例えば、ヴァスパンドゥは「慈とは同じく喜楽の因縁を与うるが故なり。悲とは同じく憂苦の因縁を抜くが故なり」という。

・大乗の論書のうちには、異なった解釈も述べられている。「生きとし生けるものが専ら苦のあつまりを身に受けていることを縁起の道理によって観じつつあるときには、悲(あわれみ

)が起こり、また、これらの生きとし生けるものはすべて、この専らなる苦の集まりから、我によって解脱されるべきである、と觀じつつあるときには、慈が起こる。

 

◯慈悲による救い(ナーガールジュナ)

・「慈悲は仏道の根本なり。そのゆえはいかん。菩薩は衆生が老・病・死の苦しみ、身の苦しみ、心の苦しみ、今世と後世との苦しみなど、もろもろの苦しみに悩まされるるを見て大慈悲を生じて、かくのごとき苦しみを救い、しかるのち発心して阿耨多羅三藐三菩提(正しきさとり)を求む。また大慈悲の力を以ての故に、無量の阿僧祇(数えることのできぬほど多くの)世の生死のうちの心より厭い没することなし。大慈悲の力を以ての故に久しく、涅槃を得べきも証を取らず、ここを以ての故に、一切の諸の仏法のうちにて仏法のうちにて慈悲を大となす。もし大慈大悲無くんば、しからば早く涅槃に入らん」

 

 楽を与える「慈」(与楽)、苦を抜く「悲」(抜苦)。どちらも現代の日常のコミュニケーションでも大切な観点。普段、自分の生活の中で「慈悲」が実践できているのか。改めて考えると、周りの人たちへの接し方を見直すいいきっかけになりました。

慈悲 (講談社学術文庫)

慈悲 (講談社学術文庫)

  • 作者:中村 元
  • 発売日: 2010/11/11
  • メディア: 文庫
 

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