『ストレッチ』(スコット・ソネンシェイン)(◯)
副題に「少ないリソースで思わぬ成果を出す方法」とありますが、「足るを知る」という言葉を思い出させてくれる一冊です。「リソースが十分っていう状態はあるの?」と改めて考えてみると、どこまでいっても完璧はなく、成長したらしたなりに、またさらに次のリソースへの欲求が現れてくる。キリがないですよね。「無い」ものではなく、「ある」もの目を向けて、ベストを尽くしていきましょうという一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯豊富なリソース=優れた成果?
・要はその方が安心できるからそう考える。
・私たちは、「リソース獲得の重要性を過大評価する一方、手持ちのリソースを活用する自分自身の能力を過小評価しすぎる」という問題を抱えている。
・ストレッチとは、多くのリソースを望むのではなく、手持ちのリソースの可能性を受け入れ、それを行動の手がかりにする考え方。
◯リソースの優れた活用=優れた成果
・チェイシング・・・「絶えず何かを追い求める」アプローチ。
・チェイシングに依存しがちな人(チェイサー)にとって大事なのはリソースの獲得であり、手持ちのリソースの活用には目もくれない。その意思決定や行動は一見合理的に思えるが、実は最悪の結果を招きかねない落とし穴が潜んでいる。
・制約を克服した人からは、学べることが多い。制約があるがゆえに創意工夫を惜しまず、創造的に行動し、結果として問題解決にたどり着くことさえある。ストレッチとはすなわち、手持ちの資源に可能性を見出し、それを上手に活用、改善しながら、自分たちの組織、仕事、家族、生活に向き合うという決意である。重要なのは、ストレッチャーになればどんなときでもベネフィットを享受できる、ということ。
◯隣の芝生はなぜ青い?
・人は、他人が持っている、または欲しがっているという理由で、自分もそれを手に入れようと夢中になる。緑の芝生に限らず。人の幸福や成功に関わる多くの領域で観察されるのがチェイシングという行為。
・自分より優れているものとの比較は「上方社会的比較」と呼ばれる。銀メダリストは金メダリストを見上げ、金メダリストは金メダル複数回受賞者を見上げる。百万長者は億万長者をうらやむ。緑の芝生にせよ、金メダルにせよ、人は上方社会的比較によって現状に不満を覚え、もっと上を目指したくなる。
・伝統的な用途以外にリソースを利用できないことを「機能的固有」と呼ぶ。
・できるだけリソースを集めようとするのは、具体的な目標があるからではなく、集めること自体が目的化しているからでもある。
・チェイサーは獲得自体にこだわりすぎ、それが何の役に立つかが見えなくなる(リソースの浪費)。
◯門外漢にこそチャンスあり
・専門家には大きな責任がついてまわる。慣例から離れた方法でリソースを活用できない。専門知識が増えるほど、すでに身につけたやり方に頼るようになる。それは新しい情報や環境の変化に直面しても変わらない。
◯台本がない方がうまくいく?
・人間はともすれば計画を立てたくなる。「しっかり計画を立てたおかげで成功した」などとよく言われるが、パフォーマンスの最大の決め手となるのは何をするかであり、何を計画するかではない。
・何事も準備しすぎということなない。普通はそう言われる。計画を立てれば綿密に行動指針が出来上がるし、細部まで詰めたという申し訳も立つ。計画を立てすぎると行動できなくなってしまう。人が計画を立てたがるのは、それに馴染んでいるからだ。幼稚園の頃から計画作りについて教わり、大人になってからもそれらを徹底させられる。
・時間や情報などのリソースがたっぷりあるときは、計画が効果を発揮するが、時間をかけて計画を完璧にしようとすればするほど、行動は遅れる。
・計画立案の際には常に、スピードを取るか、正確さを取るかというトレードオフの問題がついてまわる。計画立案のプロが、なぜ物足りない結果しか出せないのか。それはスピードか正確さかのトレードオフにこだわるからだ。
・ハイパフォーマーは、行動から学習している。計画を立てるとき、私たちは行動せずに行動を遅らせ、存在するかどうかわからない未来について考えを巡らせている。しかし、ハイパフォーマーはあくまで現在にとどまり、素早い適応能力を身につけている。
・迅速な対応には意外なメリットがある。計画に従っていないときは、政治的、心理的、経済的な思惑があまり絡まないので、「コース維持」にこだわることなく、最新の情報にいち早く対応できる。作成した計画が完璧だと思い込み、他人や自分にそれを押し付けようとすると事実が見えなくなる。計画に飛びつく代わりに、ときにはまず行動を起こさなければならない。
◯職場でジャズを奏でる
・大抵の個人や組織は、ジャズよりも交響楽を得意とし、それに価値を置こうとする。職場でも家庭でも、私たちは譜面通りの練習を繰り返す。そうすれば、時間が経つにつれてどんどん上達するから。
・ジャズミュージシャンのマイルス・デイビスは、バンドの即興術を高めるため、演奏中に違うキーで弾くことを要求した。聴衆の前で練習してお金をもらえるといった。演奏は練習、正解は一つではないという発想。
・既存のやり方に揺さぶりをかけることで、自分にも他人にも自由な発想が生まれる。
・持てるリソースで行動を起こし、結果がどうなるかを見極め、そこから何かを学び、予期せぬ方法で人々と交わり、行動を修正する自由。そしてそれを一からまたやり直す自由。常に完璧な台本が必要とは限らない。
◯見当違いは「ケガ」の元
①単なるケチになる
②行き場を失ってしまう
③学習せずに飛び出す
④期待の高さで苦しめる
⑤的外れな組み合わせをする
◯ストレッチ強化トレーニング
①きっぱりとノーと言う
②「眠れる森の美女」を探す
③探索に出る
④集中しない
⑤新しい隣人を選ぶ
⑥毎日感謝する
⑦クローゼットの中身を総点検する
⑧「事後の計画」を立てる
⑨後列をランダムにする
⑩「半年の計」を立てる
⑪分解する
⑫ごみに宝を見いだす
「ある」という自分が持つリソースに目が向けば、そこから「次にどうしよう」という行動へと移ります。あくまで何か達成したいことがあって、そのために行動を起こすことを考えると、「どうやったら失敗しないか」よりも、「どうやったらできるか」に目を向けた方が、前向きのエネルギーが出ますし、創意工夫が生まれるというのは、基本的な考え方として押さえておきたいところだと思います。