『引き出す力』(山﨑拓巳、平本あきお)(◯)
プロコーチの頭の中を垣間見ることができる一冊です。本書は、ベストセラー作家であり、夢実現プロデューサーとしてメンタルマネジメントやコミュニケーション術などを幅広く手掛けていらっしゃる山﨑拓巳さんと、オリンピックゴールドメダリストやメジャーリーガーをはじめ、これまで9万人以上にコーチングや研修を実施されてきた平本あきおさんの対談による共著です。内容は平本あきおさんがクライアントさんに対して取り組まれた6つのセッションの実例を紹介し、その進行(平本さんの頭の中)を山﨑さんが質問によって引き出すと言うスタイル。話す相手のやる気や前に進む力をコミュニケーションによって引き出したいと思う方ならとても参考になる一冊です。特に、コーチングやカウンセリングを体験した方や興味がある方にとっては、プロの頭の中が丁寧に見える化されているので、興味深いと思います。セッション6が「ライフチャート」というのは、とてもとっつきやすいなと思いました。
(印象に残ったところ・・本書より)
いずれもセッションの内容ではなく解説からピックアップしました。
◯第1章:本当の答えは「動物の脳」から生まれる
・約9万人にコーチングしてきてわかったことは、目標がモチベーションになる人は2割。あとの8割の人は10年後どころか1年後のビジョンも浮かばない。8割の人達に響くのは価値観。
・人間には古い脳と新しい脳がある。言葉、ロジックを扱うのは一番新しい脳(大脳新皮質)。感情や行動を司っているのは、爬虫類の頃からあった古い脳(大脳辺縁系、扁桃体)。大脳新皮質は夢を描いたり、やりたいことを見つけるのに使ってはダメ。ロジックで考えた目標とか価値観とかは、理屈でしかない。
⇨理屈で人が動くのではなく、感情が人を動かす。
◯第2章:未来と過去を見える化する
・うまくいく時といかない時のパターンを発見する。脳内パターン、思考パターン、言語パターン、身体感覚パターン、感情パターンか、予断を持たずに、臨場感を持って再現する。このとき、現場検証のように、プラスとマイナスで影響を与えている要素を見つけていく。うまくいったときに味わう喜びをどこで感じたらいいか、具体的な行動まで引き出す。
・モチベーションの源は自分の中にある(自分軸)。
◯第3章:モチベーションと行動を引き出す
・人間の身体には、身体知で、現在地と目標との距離感が読み込まれている。
・大事なことは、主観と臨場感。どんなにできる人、尊敬できる人のアドバイスも首をかしげることがある。臨場感を高めていくと、相手の主観で、同じ目線で当事者になって体験することができる。見ている映像の画素数が上がる感覚。
◯第4章:チームの潜在能力を引き出す
・相手の欠点を指摘するのではなく、いいところを伝えるのでもなく、その人のおかげでみんなが助かっていることを伝える。
・自分を認めてあげれるようになった上で、他のメンバーを認めて、それぞれの伸ばして欲しいところを発揮してもらったらどうなるかをイメージすると、どんなチームになったらいいかが見えてくる。
◯第5章:どうしても前に進めない人をどうするか
・「どうなったらいい?」と問いかけて、「こうなりたいです」というのを引き出す。それを「いいね、いいね」と盛り上げていって達成させるのがコーチング。
・「いいね、いいね」と言って盛り上げようとすればするほど下がっていく人は、元気付けるとなおさら下がる。こういう場合はカウンセリングの出番。
・気づきで解決する場合はいいが、「これ以上は相手の辛い過去の経験に入っていかないとダメだな」と思ったら、それ以上は深入りしないで、専門家に相談する方が安全。
◯第6章:「ライフ・チャート」の使い方(⇨これだけで1冊できそうな内容です)
・ステップ①:満足している分野を聞く(できれば2つ)
・ステップ②:満足していない分野を聞く(できれば2つ)
・ステップ③:向上させたい分野を聞く(10点になっている状態をできるだけ鮮明に聞く)。ここで間違えてはいけないのは、「doing」で聞いてはいけない。「何をしたら10点になりますか?」と聞くのは絶対にダメ。「10点になったとしたら、どういう状態になっていますか?」という「being」を聞きたい。
私もコーチングに取り組んでいる一人として、とても気づきの多い一冊でした。場面化・臨場感によって、思考ではなく感情によって引き出すというのは、頭では理解しているつもりでも実際にコーチングセッションが進行している中では、なかなか実践が難しいものです。また、 「doingではなくbeingで質問する」(「何をしたらいいか?」ではなく「それができたらどうなっているか?」)という点も、ついつい質問が「how」にいっちゃうなと気づかせていただきました。