『知識創造企業』(野中郁次郎・竹内弘高)(◯)
1996年に発行された本書は、現在でもビジネススクールなどの推薦図書などに指定されている名著。「形式知」「暗黙知」の相互作用によって企業の知識が創造されるということを解き明かした一冊です。日本企業の強みがどのように生まれているのかという理解は、発行当時は日本企業成功の背景を振り返る上で役立ったと思いますが、現在においては、改めて日本企業が世界の競争で戦うリソースの認識という未来を考える点でも役立つと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯序論より
・日本企業の連続的イノベーションの特徴は、外部知識との連携。外部から取り込まれた知識は、組織内部で広く共有され、知識ベースに蓄積されて、新しい技術や新製品を開発するのに利用される。
・そこではある種の変換が起こっている。この外から内へ、新製品・新サービス・新ビジネスシステムの形で今度は内から外へという変換プロセスこそが、日本企業のこれまでの成功を理解する鍵。
・「最も貴重な知識は教えることも伝えることもできない」(セオドア・レビット)
・「心身一如」を強調する伝統は、禅仏教が確立されて以来の日本的思考の特徴。
◯組織的知識創造の2つの次元
①存在論的次元(横軸):個人・グループ・組織・組織間
・暗黙知と形式ちが相互に作用し合い、知識が存在論的に低い個人のレベルからより高いレベルへダイナミックに螺旋状に上昇していく。この理論の中核は、この知識のスパイラルがどのようにして現れるかを記述すること。
◯知識変換の4つのモード
・経験を共有すること
・人は言葉を使わずに、他人の持つ暗黙知を獲得することができる。
・暗黙知を明確なコンセプトに表すプロセス。
・暗黙知がメタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形をとりながら次第に形式知として明示的になっていくという点で、知識創造のプロセスの真髄。
・コンセプトを組み合わせて一つの知識体系を創り出すプロセス。
・形式知を暗黙知へ体化するプロセス。行動による学習と密接に関連している。
◯組織的知識創造を促進する要件
①意図
・「目標への思い」と定義される「組織の意図」。
・戦略の本質は、知識の獲得、創造、蓄積、利用のための組織的能力を開発すること。
・したがって、企業戦略の最も重要な要素は、どのような知識を創造するかという知識ビジョンを作り出し、それを経営実践システムに具現化すること。
②自律性
・情報の獲得、解釈、関係づけにおいてより大きな自由を確保する。
・「決まりごとは最も重要なものだけの最小限にとどめる」(モーガン)
③ゆらぎと創造的カオス
・組織が環境情報にオープンな態度を取れば、そららの情報に含まれる曖昧性、冗長性、あるいはノイズを利用して、自らの知識体系を向上させることもできる。
・ブレイクダウンの重要性。快適な習慣的状態が中断されると、根本的な思考やものの見方を見直す機会となる。
・環境の揺らぎは組織の内部にブレイクダウンを引き起こし、そこから新しい知識が生まれる。「ノイズからの秩序の創造」「カオスからの秩序の創造」と呼ばれる。
④冗長性
・組織成員が当面必要のない仕事上の情報を重複共有していることを意味する。
・情報を重複共有することは、暗黙知の共有を促進する。
・情報が重複共有されると、人は他人の職能領域に踏み込んで、別の見方からのアドバイスや新たな情報を提供することができる。互いの知覚領域に「侵入することによる学習」をもたらす。
⑤最小有効多様性
・複雑な環境からの挑戦に対応するには、組織は同じ程度の多様性をその内部に持っていなければならない。
・組織の全員が情報を柔軟にさまざまな形で素早く組み合わせたり、平等に情報を利用できるようにすることによって強化できる。
発行当時と現在で異なる点といえば、個人による情報発信と共有の仕組み、SNSを中心とした緩いつながり。昔に比べて知識スパイラルを回していくことがより当たり前となっており、本書の内容を意識的に実現していきやすくなっているのではないかと思います。