MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

両利きの経営(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン)

『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン)(◯)

 両教授による本書は、「二兎を追う」戦略。冒頭の入山章栄先生の解説を読むだけでもこの書籍が注目される理由が入ってきて、読みたくなります。両利きの経営は、①漸進型の改善、顧客への最新の注意、厳密な実行という成熟事業の成功要因と、スピード、柔軟性、ミスへの耐性という新興事業の成功要因の両方ができる組織能力のこと。つまり、「探索」と「深化」の両方を実現すること。成熟した大企業・中堅企業がどのようにイノベーションを起こすのかという観点を多くの事例とともにまとめられた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯サクセストラップ

・コストとリスクを伴ううえに成果が不確実な「探索」よりも、社会的な信頼を確保できる「深化」に向かってしまうのは企業の必然。成功すればするほど、深化に傾斜しやすい。

・サクセストラップのジレンマを解決するには、戦略と調整の関係と、それが時間とともにどう変化するのかを理解すれば良い。

・サクセストラップへの答えは、複数の調整をマネジメントする必要性をマネジャーが認識すること。

・探索段階では、新しい事業コンセプトとビジネスモデルの実証、市場セグメントと顧客の特定、実行に必要な組織能力の開発がKFSとなる。組織的な調整で重要なのは、スピード、自発性、適応力。

・組織が順調に成長し始めると、広範な製品やサービスの提供や、効率性の重視、利益率と市場シェアの評価などへと、力点は移っていく。

・成功して市場と技術が成熟してくると、競争基盤はコストや効率性に移ることが多い。KFSも効率性と漸進型改善となる。組織的な調整はより中央集権的になり、標準化される。プロセス管理が中心となるにつれて、人々は専門知識を深めていく。生産性の向上やライン拡張によってなんとか成功にこぎつける。

 

◯両利きの経営の成功と失敗に関わるリーダーシップの原則

①心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む

 戦略的抱負は、探索事業と本業が共に繁栄するコンテクストをもたらす。感情に訴えかける抱負がない場合、強力な本業ユニットは陰に陽に探索ユニットに抵抗する。戦略的豊富は、社内のメンバーが探索のイノベーションを脅威と捉えるのではなく、機会だと理解するのを助けてくれる。

②どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する

 効果的なアプローチの一つは、CEOもしくは事業ユニットのリーダーが重要な選択をすること、もう一つは、幹部チームが一緒になってこうした選択をすること・

③幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る

 幹部チームの対立は通常どのように資源と組織能力を配分し活用するのかを中心に展開する。葛藤を有耶無耶にしたまま突き進んでいく。そうすると、力関係に差があるので、社内のレガシー事業がたいてい探索活動に勝利することになる。

④「一貫して矛盾する」リーダーシップを実践する

 両利きの経営のリーダーは、あるユニットには利益と規律を求めながら、別のユニットには実験を奨励する。一方の事業では戦略を支援しながら、他方の事業ではカニバライゼーションを追求させる。こうしたリーダーは定義上、時間軸や優先順位において矛盾をはらみつつ、探索と深化の戦略を実行していく。

⑤探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く

 好調な事業の場合、活動別に評価を分ければ、成長サイクルの特定時点の事業には何が重要かという議論ができる。

 

 冒頭の解説を書かれたの入山章栄先生の著書『世界標準の経営理論』では、この両利きの経営の理論であるコンピテンシートラップ(サクセストラップ)についてまとめられています。放っておくと、人は成果を出しやすい現在の領域を深掘りして究めていく。そのためどうしてもリスクが高く、結果が出しにくい新しいことに挑戦しなくなってしまう。これは、企業もそうですが、個人にも当てはまること。何かを究めると同時並行で新しいことへチャレンジしていく。変化の激しい時代を100年人生で生きる私たちには、とても参考になる視点だと思います。