『プロセス・コンサルテーション』(エドガー・H・シャイン)(◯)
著者は、米国の心理学者で、本書発行の2002年当時、マサチューセッツ工科大学スローン・フェローの名誉教授であり、スローン・スクールの上級講師で、著書も人気が高い方です。多額のお金を費やしたにも関わらず、クライアントが望んでいたことがほとんど達成されていない例を多数見てきた経験を踏まえ、クライアントと正しい信頼関係を築かなければ援助ができないし、そのような関係を築くには時間もかかり、援助側にある種の姿勢が必要となってくる。その姿勢とは何かを明言したのが本書です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯プロセス・コンサルテーション(以下「PC」という)とは
・個人、集団、組織及び地域社会を援助するプロセスに関する哲学及び態度。
・人にできるのは、人間システムが自らを助けようとするのを支援することだけだという過程がその中心にある。
・究極の目標は、効果的な援助関係を樹立すること。
◯PCの一般的原則10ヵ条
①常に力になろうとせよ。
②常に目の前の現実との接触を保て。
③あなたの無知にアクセスせよ。
④あなたのすることはどれも介入である。
⑤問題を抱え、解決法を握っているのはクライアントである。
⑥流れに身を任せよ。
⑦タイミングが極めて重要である。
⑧真っ向から対決する介入については建設的オポチュニズムであること。
⑨全てはデータである。誤りは避けられないが、そこから学習せよ。
⑩疑わしい時は、問題を共有せよ。
◯援助関係における心理力動
・アドバイスや助言というものは役に立たないことが多い。その結果、援助を求めている側からの抵抗や防衛が生じてしまう。この抵抗を理解するためには、援助関係における心理力動を探求し、援助がうまく与えられるためにはどのような条件が満たされなければならないかを調べなければならない。
・クライアントに起こりうる反応と感情
①自己防衛に陥る(コンサルタントが無能であるとするチャンスを伺う)
②問題と不満を助けてくれそうな人と分かち合えたことに安堵する
③安心させてくれる言葉、助言、指示を主に求めていることから依存し、従属していることがわかる
④認知及び感情を現在のコンサルタントに感情移転する
・自分が弱みを抱えているという感情ゆえに、クライアントは実際に悩んでいることの深いところにある部分あるいは複雑な全容を進んで明らかにしたいとは思わない。支援者が受容してくれ、支持してくれ、さらに最も重要なことには、積極的に話を聞いてくれるとクライアントが感じることができて初めて彼は事を明らかにする。
◯内面のプロセス(ORJI)
①観察する(observe)
・否認:ある情報カテゴリーが自分自身に当てはまる時、それを見ないようにする
・投影:実際は自分自身の中で作用しているものを他人の中に見る
②観察したものに情緒的に反応する(react)
③分析し処理し判断を下す(judgement)
④何かを起こすために行動を取る(介入する)(intervene)
→クライアントが次の2点を理解できるように援助しなければならない
①これらのプロセスによっていかに不適切な行動をとってしまう可能性があるかということ
②知覚や思考と感情や行動との関係をいかにしてより現実に捉えるか
◯ORJIサイクルの中にある罠
①誤認:早まった判断、期待、防衛、原因の勘違いのせいで何が起こったのか、なぜかを正確に判断しない
②不適切な情緒的反応
・何が起こったのか、なぜ起こったのかを誤認し、基礎になっているデータが不正確なことに気づかないまま、自分の解釈に情緒的に反応するのを許す
・有効なデータに過度に情緒的な反応をする
③不正確なデータや不完全な論理に基づいた分析と判断
④一見正しく見える判断に基づいて介入するが、実は判断が誤っている
◯計画的なフィードバックの原則
①発信者と受け手が受け手の目標について合意しなければならない
②提供者は説明と好意的評価を強調すべきである
③提供者は具体的で明確でなければならない
④受け手も送り手も建設的な動機を持つべきである
⑤もしそれが関連性を有しているならば否定的フィードバックを差し控えてはならない
⑥送り手は観察、意見・判断を自分のものとしていなければならない
⑦フィードバックは受け手と送り手の準備が整ったときのタイミングが重要
◯問題解決の段階モデル
①問題の明確化
②解決案の作成
③結果の予測と解決案のテスト
④行為計画
⑤各行為の段階
⑥各行為段階の結果の評価
本書では、コンサルタントとクライアントという関係をどのように構築するのか、何に留意しなければならないのかという点を中心にまとめられています。これは、コーチとクライアントなど個人と個人の間でも同様で、関わり方が真に効果的な内容であるためには、前提となる信頼関係の構築が必要。当たり前と思って見過ごしてしまいがちな要点を押さえておくことで、「分かる→できる」へ変化していけるのだと思います。