MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

一倉定の社長学(作間信司)

一倉定の社長学』(作間信司)

 「世の中に良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは、良い社長か悪い社長かだけである。会社は社長次第でどうにでもなる」。5,000社以上を指導し、1999年に亡くなられた伝説のコンサルタント一倉定さん。亡くなられてから20年以上経ちますが、経営者や後継者の方に今でも大きな影響を与え続けられています。本書は、日本経営合理化協会専務理事による、一倉経営の要点と一倉定さんの教えの要点をまとめた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯机上の「べき論」を嫌い、徹底した現場・現実主義の指導

・一倉先生が最も嫌ったのが、経営学と称し実質は内部管理学でしかない観念論と人間関係論。会社の内部にあるものは全て経費であり、経費をどう扱おうが業績は伸びない。競合の動きも営業最前線の苦悩もない人間関係論に至っては「会社が潰れないことを前提にした平和の春の野のピクニック理論」と手厳しい。

 

◯社長の人材待望論を徹底的に排す

・社員に何を期待するのか?社員の役割とは何か?

→「社長が決めた方針を確実に実行する」こと。業績の結果責任は全て社長が負い、社員は決めたことに対しての行動責任が全てである。社長と社員の間にいる管理職の役割は、部下の行動を管理することではなく、「社長の意図を実現する」こと。社長の方針の理解が一番大事であり、意図・方針を実現するために、社員一人ひとりへの徹底を図ることこそ管理職の仕事。

・社長が絶対にやらなければならないのは、経営計画書に「方針の決定」や「どんな会社を目指すのか?」「◯◯年後のビジョン」等を文章に表し、全社員の前で発表すること。

 

◯経営計画書を自らの手で書く奥深さ

・社長自身が持っている経営理念に基づいた「我が社の未来像」と実現のための行動指針「方針書」・・これが「経営計画の魂」

・この「方針書」に沿って経営目標となる「目標貸借対照表」「売上利益計画」「資金運用表」の3表を作ること・・これが「経営計画の仏」

 

◯クレームは宝の山

・お客様だって、いろいろ苦情を言ったり、リクエストするのは重荷であるから、黙って去っていく場合が多いわけで、クレームだったり各種の一見面倒に見える要求が会社に届く状態は、むしろ大歓迎すべき状態である。

・それを社長が良くわかって、「瞬間湯沸かし器のごとく怒らないこと」「報告の労をねぎらって犯人探しをしないこと」を守ってほしい。

 

◯高収益の事業構造をつくる

・高価格の戦略は中小企業、小企業の方が取りやすい。値決めの主導権を握れるし、競合も追随しづらい戦い方。大手はボリュームを売らないと多くの社員の雇用を維持できないから、わかっていても手が出せないし、全部の市場をとっても金額的に知れているから、手も出さない。

・誰もが認めるレベルは売上高計上利益率10%から。

・今の経常利益率から考えて3%を5%に、5%を8%にと徐々に上げていく道筋。それとは逆に、10年後に10%にしたいと社長が強く念じ、どうすれば実現できるのかをひたすら考えて、そのためにじっくり時間をかけて高収益を産み出せる条件を整えていく、2つの経営のやり方が考えられる。そして、その利益計画を達成させるために必要な粗利益、売上高を逆算する方法。その利益計画とは借入金の返済額からの決定や人件費の向こう3年間の上昇を織り込んだ利益計画で、自社の生き残りを賭けた必達の利益計画でなければならない。

 

◯人と最新設備の継続投資で圧倒的競争力をつける

・競争力の源泉は「社員」と「設備」であり、粗付加価値は「社員」と「設備」からしか産み出せない。

・社員は10年、20年のスパンで考えて手を打たねばならないし、機械設備、情報投資は5年、10年の償却を考えながら投資をし続けなければいけない。休むことは一時的にキャッシュリッチになるが、次代を見据えていない戦略なき繁栄と言わざるを得ない。

 

 私も、職業柄、中小企業の経営者にお会いすることが多く、経営計画書も数多く拝見してきました。一倉定さんの教えは、まさに本質的。時代が変わっても、企業を存続させ、発展させていくために何が必要かという本質的な部分は変わらないもの。より便利になり、情報が溢れる現代だからこそ、むしろ、一昔前の本質的な書籍に触れることは、余計な情報を省き、よりコアとなる部分が理解できる貴重な資源だなぁと感じます。