『1からの経営史』(宮本又郎・岡部桂史・平野恭平)
本書は「1からの」シリーズの一冊。日本の経営史を、江戸時代から、明治・大正・昭和にかけて振り返る内容で、第二次世界大戦前までで全体の半分くらい。歴史を振り返ることは、現代につながる大きな流れを押さえることができるので、物事の捉え方、理解の仕方に役立つことがあります。視野も広がるので、歴史を学ぶ意義が、「経営」という観点からも大切なことが本書を読むと感じることができるように思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第1章 江戸時代の経営
・江戸期の商家で展開された経営上の仕組みや慣行は、明治期以降の近代企業経営への遺産となった。
・幕末・維新期に日本が欧米列強諸国と接触することになったとき、列挙諸国との経済力・技術力・軍事力の格差は極めて大きかった。そのギャップを埋めるために、官民挙げて、西洋先進諸国の文明・制度・経済・経営の仕組みを導入する努力が払われた。
・江戸時代の商家や職人たちが培った経営の仕組みやものづくりの能力が近代化の前提条件として、一定の役割を果たしたといって良い。
◯第3章 近代産業経営の成立
・日本の紡績産業の発展は、国内市場で輸入綿糸を駆逐し、輸出市場での外国企業との競争に勝ち抜くことによって実現された。
・機械制紡績業以外の移植近代産業でも、同様に起業家や技術者による日本への適応のための創意工夫が見られ、それが産業としての力となり、外国から押し寄せてくる輸入品の防遏(ぼうあつ)を実現し、外国企業との競争を繰り広げていく源泉となっていた。
◯第4章 財閥の多角化と組織
・「財閥」という言葉は、今では「過去の存在」となってしまっている。しかし、財閥は、戦前期の日本経済・日本企業を牽引した「大企業集団」を形成し、「大企業」の代表的存在であった。その発展過程で形成された企業システムは、現在の大企業における企業システムの原型となった。
◯第5章 重化学工業かと新興財閥
・1930年代後半から1940年代前半の戦時統制期に五大新興財閥のあり方は大きく変わる。
①日曹は1940年代に中野の社長辞任を条件に銀行からの融資を得たのち、関係会社の整理を進め、
②森は持ち株会社が参加企業を手放して昭和電工の経営に特化する方向に転換し、
③理研は産業集団としては解体した。
④日窒と日産は、政府・軍部の要請に応じる形で事業を拡大した。
・日本の重化学工業の担い手としての新興財閥は、戦前期に形成した企業集団としての形を敗戦と共に失ったものの、五大新興財閥が育てた企業は、高度経済成長を経て、現在の日本の代表的企業(日立製作所、日産自動車、旭化成、昭和電工、日本曹達、積水化成、リコーなど)となっているものもある。
◯第8章 都市型ビジネスの成立
・としかの進展に伴う住宅需給の逼迫と住環境の悪化は、阪急のような電鉄企業による郊外開発を成功させた。
・日本では田園都市構想が注目された。しかし、日本では田園都市構想のような都市機能を分散する形での都市問題の解決は、困難と考えられた。そこで日本では、業務機能を都市に残して、住宅部分のみを郊外に移す、つまり、郊外に職住分離のベッドタウンを造る形で郊外開発が進められるべきとされた。
・これを先取りしたのが、小林一三が始めた電鉄会社による沿線開発であった。このビジネスモデルは、小林から直接経営手法を学んだ五島慶太の東急をはじめ、他の鉄道会社にも広がった。
・そして、戦後の高度経済成長期には、国や自治体による大規模ニュータウン開発へとつながっていた。このような郊外開発は、大都市の夜間都心人口を大幅に減らし、郊外に人口が移動していく、いわゆる都市の「ドーナツ化現象」という問題をもたらす結果となった。
◯第11章 企業集団とメインバンク
・メインバンクは、資金供給者として、あるいは経営に対する監視者(モニター)として重要な役割を果たしていたことはもちろんであるが、それらを前提とした上で、取引先企業が経営危機に陥った際に救済することにより、企業特殊的な技能を中心とした人的資本を守る役割を果たした。
・こうした救済は、一時的な経営危機にある日本経済においては、極めて重要なメインバンクの役割であったと考えられる。
◯第12章 日本的生産システムの形成
・トヨタ生産システムの優位性は、プロダクト・マネジャー制などの開発体制、長期相対取引や多層的構造に特徴づけられるサプライヤー・システム、複数の販売チャネルからなるディーラー・システムなど、サプライチェーン全体に支えられている。
・したがって、広い意味での「ものづくり」とは、単なる生産の側面だけでなく、開発・購買・販売までをも含む事業システム全体ということになろう。
◯第13章 流通のイノベーション
・スーパーとCVSの台頭は、まさに流通のイノベーションであった。セルフサービスで商品を購入することも、大量に仕入れて安価かつ大量に消費者に商品を提供することも、商品を多品種取り揃えてフランチャイズ形式で店舗展開することも、いずれもスーパーやCVSが達成したことであった。
歴史を振り返ると、製造業や流通業の発展の経緯が理解できたり、現在活躍する大企業が形成された経緯がわかり、どの企業とどの企業が関係が深いのかという点も理解できてきます。そして、隆盛を誇った業界が海外に取って代わられ、新しい仕事が生まれてくることもわかります。大きな流れを見て、歴史に学ぶ姿勢は経営においても大切な側面と感じました。