MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

日本人の勝算(デービッド・アトキンソン)

『日本人の勝算』(デービッド・アトキンソン

 著者は、英国生まれで日本在住30年以上。元ゴールドマンサックスの金融調査室長で、現在は小西美術工藝社社長。日本の生産性に着目した著書が多数です。本書は、現在日本で起きているパラダイムシフトの原因、人口減少と高齢化に打ち勝ち、日本が再び一流先進国の地位を確かなものにするためにはどのような行動が必要かという提言がまとめられた一冊。海外のエコノミスト118人のの論文やレポートをもとに、その分析を日本の事情に当てはめて検証されています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯極端に大きい日本の人口減少

(2016年→2060年)

・日本:▲32.1%

・世界:+36.1%

・米国:+25.2%

・G7:+7.0%(日本除く+14.9%)

・中国:▲9.0%

・人口減少は、最大のデフレ圧力。人口増加によるインフレ圧力より、人口減少によるデフレ圧力のほうが倍くらい大きい。特に22〜44歳までの人口動向による影響力が最も大きい。

・人口が増え、需要が増えると、不動産価格が上がりやすくなるが、しばらくすると新しくビルや家が造られ、供給が増えるので、インフレ圧力は一部緩和される。一方、人口が減り始めて需要が減っても、不動産のストックはそう簡単には減らないため、デフレ圧力は緩和されない。

 

少子高齢化によるデフレ圧力

・子供が増えるのはインフレ要因、減るのはデフレ要因。

・生産年齢人口が増えるのはデフレ要因、減るのはインフレ要因。

・高齢化はインフレ要因。

・超高齢化は極めて大きなデフレ要因

 

◯政治的なデフレ圧力

・主な収入源である若い人はインフレを好む傾向があるが、65歳以上の高齢者層は、資産は持っているが収入は少ないので、デフレを好む傾向がある。

 

◯産業構造の変化によるデフレ圧力

・若い人が多い経済ではモノを消費する比率が高いので、製造業が盛んになる。一方、平均年齢が上がれば上がるほど需要が変化し、製造業からサービス産業に経済構造の中心が移動する。日本は高齢化が進んで介護などの需要が先行して増加している。これらの分野は生産性が極めて低い。

 

◯外国資産売却によるデフレ圧力

・年齢が上がるほど給料ではなく、資産売却で生活費に充てる傾向が強くなる。外国資産を売却することにより、円高につながってデフレ圧力が増すと考えられる。

 

◯企業の生き残り競争によるデフレ圧力

・人間の数に依存するモノとサービスの需要が低下する。供給かすぐに減るかどうか。価格を下げる競争がデフレ圧力となる。

 

労働分配率の低下によるデフレ圧力

財務省が2018年9月に発表した2017年どの労働分配率は66.2%で43年ぶりの低水準。労働分配率の低下も大きなデフレ要因。

 

最低賃金が低いことによるデフレ圧力

デフレスパイラルの引き金となる。

(2017年の最低賃金

・日本:6.50ドル

→国際的に見てかなり低く、理論的に計算した本来あるべき金額の3分の2程度でしかない。

 

◯低賃金の外国人労働者を迎えることによるデフレ圧力

労働人口に占める最低賃金で働く人の割合が高まり、労働分配率のさらなる低下につながる。

 

◯デフレ圧力から脱却するための方策

(本書では第2章以降で論じられています)

・高付加価値・高所得経済への転換

・海外市場を目指す輸出戦略

・企業規模の拡大

最低賃金の引き上げ

・生産性を高める

・人材育成トレーニン

 

 第2章以降で論じられているデフレ脱却のための方策はとても興味深いです。人口増加の流れの中での政策と、人口減少の流れの中での政策は異なるもの。外国、特にアメリカからの影響も大きい日本ですが、アメリカは人口が増え続けている国。そして、高度経済成長を中心とした20世紀の施策も人口増加時期。雇用を確保するために取られた中小企業支援・保護政策が、先進国でも特異な中小企業中心の企業構成となり、それが生産性の低下を招いていると指摘されています。是非や好みは別として、データで示された結果からは、考えどころの多い内容だと思います。