『22世紀の民主主義』(成田悠輔)(◯)
著者は夜は米国イェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。東大卒業時は最優等卒論に与えられる大内兵衛賞受賞、MIT博士号取得。スタンフォード大学客員教授、東大招聘研究員、経済産業研究所客員研究員など兼歴任。
「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」。本書は、ネットやSNSの浸透とともに進んだ民主主義の劣化が、次にどのような展開に発展するのか。選挙や民主主義をどうデザインすれば良いかを考え直し、いろいろな改造案を示した一冊です。
選挙は民意を汲み取る唯一究極の方法ではなく、エビデンスに基づく目的発見で用いられるデータ源の一つに格下げされ、無意識民主主義(インターネットや監視カメラがとらえる会議や街中、家中の言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い、選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している)が大衆の民意を表しているものとして出てくる。人間は、アルゴリズムの価値判断や推薦・選択がまずい時に介入して拒否することが主な役割になる。ちょっと聞くとぶっ飛んでそうな内容なのですが、今の世の中のデータ収集や活用の先にどのような世界が待っているのか、あながち無視できる話でもなく、まさに議論を巻き起こす一冊という感じでしょうか。最近読んだ中でも、非常に興味が惹かれ、夢中になって読めました。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯資本主義と民主主義
現代は相い矛盾した主義の中で生きている。資本主義は強者が閉じていく仕組み、民主主義は弱者に開かれている仕組み。
・「資本主義↔︎民主主義」の対比
①強者・異常値駆動↔︎弱者・中央値駆動
②排除と占有↔︎包摂と共存
③富める者がますます富む↔︎バカも天才も同じだもの
④「成長」↔︎「分配」
・民主主義の建前めいた美しい理想的な考え方は、凡人たちの嫉妬の正当化とも言える
・皆が合意したということになぜかなっている社会的契約として、建前を規定のルールにしてしまった。
・暴れ馬資本主義をなだめる民主主義という手綱。資本主義はパイの成長を担当し、民主主義は作られたパイの分配と担当しているナイーブに整理してもいい。
・実際、民主主義は後退している。今世紀に入ってから非民主化・専制化する方向に政治制度を変える国が増え、専制国・非民主国に住む人の方が多数派になっている。この傾向はこの5〜10年さらに加速している。
◯構想
・民主主義とはデータの変換。民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表すなんらかのデータを入力し、なんらかの社会的意思決定を出力するなんらかのルール装置である。
・民主主義のデザインとは、従って
①入力される民意データ
②出力される社会的意思決定、
③データから意思決定を計算するルール・アルゴリズム(計算手続き)
をデザインすることに行き着く。
・選挙を超えた、反意識、無意識の反応にも及ぶ幅広い民意データには2つの役割がある。一つは民意への解像度を高めること。二つ目の役割は、データの種類を変えること。
◯アルゴリズムで民主主義を自動化する
意思決定アルゴリズムのデザインは2段階で行われる。
①各論点・イシューごとに、まず価値判断の基準や目的関数を民意データから読み取る。「どれくらいの平均的成長のためにどれくらいの格差であれば許せるのか」といった価値判断への答えを民意データから読み取る。
②次に、その価値判断・目的関数に従って最適な政策的意思決定を選ぶ。この段階は、過去のさまざまな政策がどのようなせいか指標につながったのか、過去のデータを使って効果検証することで実行される(エビデンスに基づく政策立案)。
本書の中でも「シルバー民主主義」と表現されていますが、人口分布的に今後高齢者が増えていくので、ますますシルバー世代の意見が反映された政治になっていく中、どのような形が未来の日本にとって良いのか、そのための民意をどう拾い集めて政策に繋げるのか。長期スパンで考えると難しい問題が山積なんだろうと思います。無意識・反無意識的な情報も収集される世の中が来たとしたら、それが幸せなのか分かりませんが、テクノロジーを政治に生かす一つの方向として、とても興味深い内容でした。