MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

冒険の書(孫泰蔵)

冒険の書』(孫泰蔵

 本書は、サブタイトルに「AI時代のアンラーニング」とあるように、今の時代の学び方の書です。ただ、新しい何かを提示するというよりは、そのヒントを古典的名著に求めにいっています。本書では、その古典のエッセンスをわかりやすく紹介しています。「昔の教育の主張が今の時代に使える!」という感覚でしょうか。『冒険の書』というタイトルや表紙は、どちらかというと惹きつけるための要素のように感じました。「これからの未来に向けた学び方のヒントを古典的に名著に求めてみる」。そのための手解き書という感じで捉えて読んでみると良いのではと感じました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯基礎という神話

・「基礎」という考え方は、学びを「型」にはめてつまらなくしてしまったり、しまいには嫌いにさせてしまったりする。「基礎は大事」というもっともらしい言葉で思考停止に陥っている。「基礎」にとらわれる必要なんかない。学びはもっと自由でいいし、もっと楽しくあるべきだ。

 

◯失敗する権利

・この複雑な世界に、これだという「正解」はない。失敗を「避けるべきマズいもの」と考えることをやめ、「成功するためにとても大事な学びのプロセス」と捉えること。

 

◯3つに分けられた悲劇

・「学び」から「遊び」がなくなり、つまらない「勉強」になった。

・「働き」から「遊び」がなくなり、つまらない「仕事」になった。

 

◯無意味

・「意味がない」という一点において、私たちに「意味を見出すという意味」を提示し、結局のところ、「私たちの役に立って」いる。

 

◯答えるな、むしろ問え

・本質的に問い続け、その問いを深める行動をとるうちに、結果として、問題が解決していることがある。そのような状況を私たちは「イノベーション」と呼ぶ。

 

◯つくるとわかる

・私たちは、検索サイトやSNSアルゴリズムによって自分が見たい情報しか見えない「フィルターバブル」と呼ばれる閉じた世界の中で過ごしている。

・環世界が違う人たちは、全く違った意見を持っている。そんな、人々が分断された世界でお互いに通じ合うには、「つくる」と「わかる」という「機能環」を回すことで学びを深め、共につくることを通じてつながっていくしかないだろう。

 

◯専門家と素人

現代社会の問題は様々な要因が絡まり合っている。専門教育だけを受けてきた人が「役に立つ」とは限らない。むしろ、幅広い知見を持っている人が必要とされている。

 

◯多様な見方

・多様な見方ができるというのは、「他の人の言うことを鵜呑みにしない」ということである。

 

◯学校の存在

・世界は変えられる。このメッセージも大事だが、それ以上に、本気でそう思える環境をつくりあげていくことが大事。もし学校が「自分の人生を自ら切り開く人間を育てる」ことを指名とするならば、学校そのものが「世界を変えられる」と本気で思えるような環境でなければならないはず。

 

◯世界を変える魔法

・対話を通じて自分が変わることで、相手が変わり、社会が変わる。それこそが世界を変える魔法。

 

◯本書で取り上げられている書物

『世界図絵』(ヨハン・アモス・コメニウス)

リヴァイアサン』(トマス・ホッブズ

『監獄の誕生』(ミシュル・フーコー

『脱学校の社会』(イヴァン・イリッチ)

『「わかり方」の探求』(佐伯胖

『子供の誕生』(フィリップ・アリエス

『教育に関する考察』(ジョン・ロック

『エミール』(ジャン=ジャック・ルソー

『オウエン自叙伝』(ロバアト・オウエン)

『人を動かす』(デール・カーネギー

『コンヴィヴァリティのための道具』(イヴァン・イリッチ)

マルセル・デュシャン アフタヌーン・インタヴュース』(マルセル・デュシャン

荘子』(荘子

歎異抄』(唯円?)

『動物の環境と内的世界』(ヤーコブ・フォン・ユクスキュル)

『被抑圧者の教育学』(パウロフレイレ

『恒星への最大遺物』(内村鑑三

 

 本書では17冊の書物が紹介されていますが、その中でも気になったのが『エミール』(ルソー)。「すべての人に必要な教育とはどのようなものか?」という難しい問いに「自然人」という新しい概念で考え方を導いた本書。世界で初めて子供の人格を尊重し、個人差を認め、初等教育の重要性を説いて世界に衝撃を与えたと紹介されています。1762年の作品。