『脱炭素産業革命』(郭四志)(◯)
地球環境を守るためのCO2削減、カーボンニュートラルに向けた取り組みが加速しています。本書は脱炭素の動きを新たな段階の産業革命として現状を捉え、新たな生産様式、生活様式が、エネルギー安全保障や資本主義、市場経済及びグローバル経済のグリーン化にまで至っている状況を分析。資源国のパワー低下と脱炭素先進国の台頭による地政学的変動、国際政治経済秩序の変容までを分析した一冊。良くこの新書サイズにまとまったなぁと思えるくらい、要点が詰まった一冊です。これから数十年、社会経済活動の柱の一つになるテーマですので、大きな動きを把握しておきたいものだと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
・産出量が少なく、採掘精錬することが難しいレアメタルは30数種類存在しており、物理的・化学的特性や市場規模・価格・主要産出国・地域などは様々
・産出地が偏在しているため、資源国との政治・外交や軍事などの対立・摩擦で供給が途絶されるリスクがあり、価格も変動しやすい。
・レアメタルの需給ギャップは主要国の脱酸素化に大きな懸念をもたらしている。今後、欧米・中国・新興国との間でレアめたる資源獲得競争はさらに激化し、安定供給の確保が一層重要な課題となる。
・2021年末時点で、リチウム、コバルト、ニッケル鉱山プロジェクトのM&A件数は321件で前年比154.8%と大幅に増加している。
(2019年時点のレアメタル算出シェア)
・ニオブ:ブラジル(88%)
・レアアース:中国(63%)
・タングステン:中国(82%)
・アンチモン:中国(63%)
・白金:南アフリカ(55%)
・リチウム:豪州(55%)
・コバルト:コンゴ民(71%)
◯日本の動きと今後の展望
・2020年10月、菅首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言。この取り組みとして、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。
・2021年1月、菅首相は2035年までに新車販売の100%を電動車とするという目標を示しており、再生可能エネルギー電力の拡大とEVの購入・普及を集中的にサポートしている。
・2021年4月、2050年カーボンニュートラルに向けて、「2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減する」目標を掲げ、パリ協定後に打ち出した2013年度比26%の削減目標から大幅に引き上げた。さらに「50%の高みに向け、挑戦をしてまいります」という従来の目標を7割以上引き上げる野心的な目標を発表。
・再生可能エネルギーの生産・供給については、2030年までに洋上風力発電設備容量を5.7GWまで増大する。陸上風力発電設備容量を17.9GWまで増大。太陽光発電設備容量を2021年9月末時点の63.8GW→2030年には103.5〜117.6GWまで拡大する。
・2021年3月にグリーンエネルギー技術開発を促進し、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてNEDOに2兆円の基金を作り、野心的な目標にコミットする企業に対して10年間、研究開発・実証から社会実装に至るまでに継続的に支援するとしている。
グリーンバブルと言われるほど、カーボンニュートラルに向けて予算が充てられる時代に突入しています。商品・サービスを利用する一消費者としては、産業の裏側として目につきにくい領域かもしれませんが、ビジネス側面から見れば大きな環境変化。大企業はビジネスチャンスとして捉え、大きく舵を切る企業もあると思いますし、環境変化という意味では脅威に感じる企業もありさまざまな状況。ただ、大きな動き、変化はすでに起こり始めているので、長い目で見てこの流れをつかみ、流れに逆らわないようにしていくことが大切なように思います。