『ロジャーズ クライエント中心療法』(佐治守夫・飯長喜一郎編)
カウンセリングの古典とも言われる、ロジャーズの「クライエント中心」という考え方。本書は、そのロジャーズという原点を大切にして次世代に受け継ぐという役割を果たすことを目的にエッセンスをコンパクトにまとめた一冊。とはいえ、初めて読んだ領域なので、試行錯誤しながら取りあえず、一旦読んでみたという感じでした。経験や感覚で「こうであろう」という部分を、数々の実験を繰り返して裏付けを取っていく作業の繰り返し。なかなか推論どおりにはいかないもので、そうした労力の積み重ねの結果がまとめられていると思うと、先人の偉大さを感じます。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇セラピストの適性
①客観性
過度に陥らない共感的同一視の能力、純粋に受容的で関心のある態度、道徳的判断を下すこともなく動揺したり恐れたりすることもない、深い理解を含んだ態度
②子供の本来の姿への心からの尊敬
③セラピスト自身の自己理解
自分自身、自己の顕著な情動様式、自分自身の限界と短所についての健全な理解
④心理学的知識
⇒心理治療者の根本的条件は、知的なものよりも、態度・情動・洞察の領域にある
〇効果的なカウンセリング
クライエントをして、自分の新しい方向を目指して積極的に歩み出すことができる程度にまで、自分というものについての理解を達成できるようにする、明確に構成された許容的な関係によって成立するもの。
〇個人の価値や意義を認め、尊重すること
・一人ひとりの人間の持つ重み、そのかけがえのなさをカウンセラーが十分に認識しているかどうか
・カウンセラーの一つひとつの応答・態度・語調等々の中にそうしたカウンセラーの価値観が明らかに認められるかどうかを問う
・クライエントに対する尊敬の念なしでは、クライエント中心療法を技術的に学ぶことはできない
〇クライエントの能力への信頼
・クライエントの自己指示(self-direction)の能力を信頼できるかどうか。クライエントの自己指示の能力を信頼する首尾一貫性こそが、仮説の検証という意味でもセラピーを前進させる。
・クライエントは、カウンセラーの態度に極めて敏感であり、カウンセラーの言葉と深意の不一致、つまり、「ウソ」や「ごまかし」は簡単に見破るもの
〇非指示的ということ(無干渉主義はカウンセリングを失敗に導く)
・受動性やクライエントの感情に巻き込まれていないようにみえることは、クライエントには、関心の欠如や拒否として経験される。
・無干渉主義の態度は、クライエントが価値のある人間として、カウンセラーに見なされていることを、クライエントに全然示さない。
・「非指示的」という公式化は、カウンセラー側の受動瀬とは同じではない。
〇セラピーの「技術(技法)」について
自分の弱点をより多く未解決のままにしているセラピストは、どちらかというと「技法」に依存することによって、自分を防御する傾向がある。「技法」とは、こうした意味でセラピストにとって諸刃の剣となる。
〇エンカウンターグループ
参加者の対人関係と個人のより豊かな成長に焦点を当てたグループのこと。以下の多くのことが同時に重複して起こる。
①模索
このグループの目的は何か、自分は何を求めてここに来ているのかといった基本的なことが熱心に討論される。
②個人的表現又は探究に対する抵抗
①の段階が進むと、かなり個人的な態度、私的な自己を表明する人も出てくる。
③過去の感情の述懐
感情の表明は、「あの時、あそこで」起こった感情を、時間的にも空間的にもグループの外のものとして語られる。
④否定的感情の表明
「今、ここ」での感情として安全である否定的感情の方が最初に表明される。
⑤個人的に意味のある事柄の表明と探究
信頼が育ち、メンバーがこれは自分のグループだ、自分の望むグループにしていけそうだし、していきたい、と感じ始める。そのような空気の中であるメンバーが意味深い形で内面をグループに語る。
⑥グループ内におけるその場で生じた対人感情の表明
信頼し合う空気が十分育ってから表明され始める
⑦グループ内の治癒力の発展
悩み、苦痛を感じながら語っている人に対して、多くのメンバーが何とかそれを解決したり軽くしたいという止むにやまれぬ気持力、いかにもその人らしい仕方で関わるようになる。
⑧自己受容と変化の芽生え
自分のない名をグループに語ったときの体験を通じて、自分自身を受け容れ、自分自身であることが出来るようになる。
⑨仮面の剥奪
個人が自分自身であること、感情を表明すること、日常の社交的な仮面を脱ぐことを要求し始める
⑩フィードバック
自由なやりとりの中で、自分が他人にどう映っているかを知る手がかりを数多く知る
⑪対決
ぶつかっていると言ったほうがふさわしい、人と人の対決が起こる場合もある
⑫グループ・セッション
動揺している人と一緒に散歩して話をするなど、メンバーがいろいろな形でお互いを援助し合う
⑬基本的出逢い
日常生活で経験するよりもはるかに密接で直接的な関係を人々が結ぶ。これがグループの経験の中核であり、強力な変化を引き起こす理由の一つ。
⑭肯定的感情と親密さの表明
人が互いに感情を表現し、受容されると、非常に深い親密さと肯定的感情を持ちあうようになる。セッションの回を重ねるごとに、温かさ、グループ意識、信頼といった感情が形成されてくる。
最後のエンカウンター・グループは、何度も同じメンバーで集まって学ぶ学校・セミナーなんかを通じた人間関係を思い出すと当てはまっているなぁと実感します。その場が生み出す成長効果とでもいうか、そういう観点を整理して意識するだけでも、人への着目の仕方が変わりそうです。
ロジャーズ クライエント中心療法 新版 --カウンセリングの核心を学ぶ
- 作者: 佐治守夫,飯長喜一郎
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/05/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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