『部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ』(松尾睦)(◯)
人の成長の7割は経験によって決まる。本書は2011年に発行された『「経験学習」入門』からさらにOJTの実務的に踏み込み、部下への関わり方や心構え、考え方について体系的にまとめられた一冊。部下育成に関する理論を学びたい方に適した内容です。
確かに、成長に経験は必要。何を経験するか、経験から何を学ぶか、その経験をどう活かすか。いずれも自分の仕事で具体的に考えなければならないことであり、本書はその考える際の基本になる、OJTの実践書といえます。自分ができていること、できていないこと、考えもしなかったこと。本書を読む際に自分の仕事の現場を思い浮かべながら読むことで、より実務に活かせる実践書になる良書だと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯経験学習の基本プロセス
・人は「経験→振り返り→教訓化→応用」のサイクルを通して学ぶ。
・「連携、変革、育成」の経験が成長を促す。
・ストレッチ(挑戦する力)、リフレクション(振り返る力)、エンジョイメント(やりがいを感じる力)が必要になる。
◯育て上手のマネジャーと平均的マネジャー
・育て上手のマネジャーの指導法
①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける。
②失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出している。
③中堅社員と連携しながら、思いを共有している。
・平均的マネジャーの指導法
①弱みの克服に重点を置き、組織目線で仕事を意味づけている。
②問題や失敗のみを振り返らせ、弱みを克服させている。
③マネジャーが中心となって職場を仕切っている。
◯育て上手の指導法
・業務開始前
①部下の潜在的な強みを探っている。
②期待して、成長ゴールで仕事を意味づけている。
③先を見せて、やり方を教えている。
・強みを引き出す3つのアプローチ
①特定スキルを徹底的に伸ばす「深掘型」
②新しい軸を増やし、強みの幅を広げる「拡張型」
③致命的な弱みを是正する「是正型」
◯振り返りのスキル
①事実によって成功を振り返らせ、強みを確認する
→事実やデータを記録し、活用する。
②なぜ成功したのかを振り返らせ、強みを引き出す。
→成功の再現性や拡張性を高める。
③同じ目線で振り返り、失敗を成功に繋げる
→「対する関係ではなく「並ぶ関係」を心がける。
◯思いの共有
①中堅社員を中心として職場を運営している。
→英雄型から共有型リーダーシップへ。
②メンバーの意見やアイデアを引き出している。
→心理的安全性をつくり、3〜5年先を考える。
③ビジョンや理念をつくり、共有している。
→統制者ではなく、リーダーとなる。
◯成長を促す仕事を作る
・つなぐ(他との協働)
①他部門に対し、新たなプロジェクトを提案している。
②本部から提供された機械を活用している。
③顧客や取引先と連携している。
・わたす(役割の移行)
①上位者が実施する業務を与えている。
②自身の管理的業務を与えている。
・つくる(新たな役割づくり)
①部内で新しいチームや業務を設置している。
②上司と協議し、新しいチームや業務を設置している。
◯成長を促すリフレクション
①振り返りを促す際には、次の3ステップを踏む
1)事実の確認
2)共感
3)評価
②リフレクションの支援は「ガードレール型」にする
1)ガードレール型・こういうふうに考えてみたら?と方向性やヒントを与える
2)線路型・・この通りにやりなさいと具体的なやり方を教える
3)放牧型(部下の力量次第)・・アドバイスや説明をせずにすべて任せる
③5分間のリフレクション・エクササイズの流れ
1)2人ペアをつくる
2)経験したことと学んだことを思い出す。
3)経験したこと学んだことを語り合う。
OJTに関する書籍は他にもいろいろありますが、著者の書籍は具体的かつ体系的であり、とても読みやすい印象です。前作『「経験学習」入門』と本書を合わせて読むことで、理解もより深まるものと思います。OJTは成長の基本。仕事の時間のほとんどがOJTの場。理論を理解した上で実践を積み重ねていくことで、より早くより高く成長していけることでしょう。