著者は、平成の元号の考案者としても有名な昭和の東洋哲学の大家。中国古典の代表作、四書(論語、孟子、大学、中庸)のひとつ『孟子』。本書は、『孟子』を講話した内容をまとめた一冊。中国・戦国時代の経書(儒教の根本経典)から現代に生かせる学びは何か?読み解くのが難しい古書を講義を聞くように読めるのが本書の良い点。いきなり解説書を読むよりは、まずは講義を聞く方が入りやすいという方におすすめです。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯父子の間は善を責めず
・「父子の間は善を責めず。善を責むれば則ち離る。離るれば則ち不祥焉(これ)より大なるは莫(な)し」(『孟子』離婁章句上十八)
・父というものは子に対して、あまり同義的要求をやかましくするものではない。それをやると、子が父から離れる。父子の間が疎くなる。父と子との間が離れて、疎くなるほど祥(よ)くないことはない。そこからどんな不祥(わる)いことが生ずるかも知れぬ。
◯原文「孟子と弟子の公孫丑との問答」
・「公孫丑曰く、君子の子を教えざるはなんぞや。孟子曰く、勢い行わざればなり。教うる者は必ず正を以てす。正を以てして行わざれば、之に継ぐに怒を以てす。之に継ぐに怒を以てすれば則ち反って夷(そこな)う。夫子我に教うるに正を以てす。夫子未だ正に出でざるなりと。則ち是れ父子相夷狄うなり。父子夷うは則ち悪し。古は子を易(か)えて之を救う。父子の間は善を責めず。善を責むれば則ち離る。離るれば則ち不祥焉(これ)より大なるは莫(な)し」
・【訳】孟子の門人である公孫丑という男が尋ねた。「君子は自分の子供を教えないと言われますが、どうしてなのでしょうか」。それに対して孟子は言う。「それは自然の成り行きとしてうまくいかないからである。教える者は必ず正しい道を行えと厳しく言う。うまくいけば良いが、実際は教えた通りにならない。うまくいかないとなれば、教える者はついつい腹を立てて怒鳴ってしまう。怒鳴ってしまうと、本来は正しいことを教えたはずなのに、かえって愛情とか父子の関係を損ねる結果になってしまう。それどころか子供は「お父さん、あなたは私に正しいことを教えているが、いったいあなた自身は正しいことを行なっていないじゃないか」と反発してしまうこうなったらもう取り返しがきかない。だから昔の親は自分の子供を自ら教えるのではなく、他人の子供と取り替えて、教え諭したのである。父が子に善を責めると、親子の情が離れてしまう。それこそこれ以上の不幸なことはない」
・【解説】立派な人ながぜ自分の子を教えないのか。それは教えようとしたって、勢いやれないからであると孟子はいう。なんとなれば、父が子に教えるからには必ず父自身これが正しいことだと信ずることを子に納得させて実行させようとする。それだけに、それが行われていないとすると腹が立つ。子に対して腹を立てればかえってぶち壊しである。子供は子供で、なんだ親父(夫子)、俺に道徳を攻めるのか、自分様はなんでもご立派というわけでもないじゃないか、と内心面白くない。こうなると父子両方ともぶち壊し。これはいけない。だから昔の聖人も子供を取り替えて教えたものである。つまり他人に師事させたのである。
この一章句を取っただけでもハッとさせられ、学びは大きいと思います。誰が教えるか、誰から学ぶか。それによって結果が大きく変わることがある。昔も今も同じような状況があると思いますし、その一場面に示唆を与える教えが2500年も前の書物にあると思うと、感慨深く感じます。