MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ローマ人の物語Ⅲ(塩野七生)

ローマ人の物語Ⅲ』(塩野七生)(〇)<2回目>

 第3巻「勝者の混迷」。2周目に入り面白さが増しています。1周目では、第2巻のハンニバルと第4巻のカエサルに挟まれた、箸休め的な第3巻という印象でしたが、この3巻のポエニ戦争終結後の統治上の混乱も共和政ローマから帝政ローマへ移行していく大きな流れを押さえる上でとても興味深い内容です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

グラックス兄弟ティベリウス、ガイウス)の時代

・大規模な戦役が無くなり、兵役を免除された無産者が増え、富の格差の拡大が起こった。前2世紀後半から始まる抗争は、社会正義の公正を求めて、富める者と貧しき者の間に生じた。

・新たに属州となったシチリアから直接税として届く多量の小麦が、小規模農家の小麦生産に打撃を与えた。価格競争力で敗れた小麦の代わりにローマの農民は、牧畜業・オリーブ油・葡萄酒に主力を移す。ローマの力が増すにつれ、イタリア全体の生産性が向上した。

・センプローニウス農地法:国有地を対象にした農地改革により、農民から無産者に落ちた人々に、農地という資産を与えることで自作農に復帰させ、それによってローマの市民層の基盤を健全化し、失業者救済をすると同時に社会不安を解消しようと考えた。

・財源を理由に反対する元老院と市民の支援を受けたグラックスの対立は、ティベリウスとその支持者が殺される結末。その後100年続くローマの内乱の端緒になる。

・代わって護民官に就任したガイウス・グラックスは、農地法の再承認、小麦法(安い価格で貧しい人に配給)、植民都市の建設、選挙制度改革など次々に市民のための改革を実施。反対する元老院は「元老院最終勧告」(非常事態宣言)を発し、ガイウス・グラックス自死に至らせる。

 

〇ガイウス・マリウス

・すこぶる優秀な職業軍人マリウス。無産階級ということで兵役を免除されていた市民が戦場に駆り出されることがローマ軍団の質量の低下の原因と判断し、徴兵制ではなく、志願兵システムに変えた。

・志願制に変えたことによって、失業者を吸収し、長期に兵を使うことができるようになったが、ローマ市民の資産性による階級制度は消滅し、将官階級と一般兵士の関係が緊密になり、ローマ軍団の「私兵化」がみられるようになった。

・ゲルマン族に勝利したが、平和の時代は職業軍人が職を失うため小麦の配給法を改め無償化した。これは部下たちへの「失業手当」を意味した。元老院は硬化し、護民官サトゥルニヌスがライバルを殺したことを理由に「元老院最終勧告」により、サトゥルニヌスは殺される。

 

〇キンナ

 スッラのクーデターによりマリウスとスルピチウス派を国賊にすると決めたが、スッラがギリシアに遠征したとたんに、マリウスと執政官キンナがが手を組み、スッラ派を粛清。マリウスはその後70歳で死去し、キンナの独裁が始まる。

 

〇スッラ

 キンナとスッラはギリシアで決戦することになったが、統率力かけたキンナは志願兵たちの中で事故死。スッラは、反対派一掃作戦を開始。4700人が財産没収か殺された。スッラは法に則り、任期無期限の独裁官に就任。その後独裁官を辞任し、隠遁生活ののち死去。スッラ派の、ポンペイウスクラッススの時代に突入。

 

 ローマの政治体制の特徴でもありますが、元老院VS市民集会(貴族VS市民)の対立図式。市民集会で決議された法案は元老院の承認が無くても法律となるという、貴族VS市民の対立を解決するために作られた法律(ホルテンシウス法)。市民派は市民に有利なように法律を決め、一方貴族は従来の特権がなくなり、不満が募る。戦争が無くなり、軍人が無職化して貧富の差が大きくなる中で、無産階級を救っていく金銭的しわ寄せに不満が募り、権力まで低下する元老院派。内乱とは、権力・金銭・名誉などの欲望のはけ口として、平和な時代へ移行する中で起こり得ることだということが本巻を読むにつれ、よく分かります。

ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

 

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