『奇跡のリンゴ』(石川拓治)(〇)
NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも取り上げられ、映画にもなった物語。無農薬でりんごを生産するという絶対不可能とされた業界常識を覆したことで知られる木村秋則さんの軌跡を綴った実話です。
何年やってもうまくいかず、冬場の出稼ぎやアルバイト、周囲からの制止の声、貧しい生活、一時は自殺も考えたという。そんな中、木村さんが何を思い、何が無農薬への挑戦を後押ししたのか。自殺のために行った森の奥での偶然の出会い。そして、10年経ってようやく形になり、いまや入手困難な奇跡のリンゴへと変貌していく物語。その栽培法は世界からも注目されています。
(印象に残ったところを抜粋‥本書より)
〇黒砂糖、胡椒、ニンニク、トウガラシ、醤油、味噌、塩、牛乳、日本酒、焼酎、米のでんぷん、小麦粉、酢・・・。有望と思える食品を片っ端から農薬の代わりに散布してその効果を試し続けた。けれど、どれ一つとして満足な効果は得られなかった。
〇キュウリ、トマト、ジャガイモ、ピーマン、ナス、カボチャ、メロン、大根・・・。無農薬で作れない作物はなかった。米にしても、農薬も肥料も使わずに一反あたり9俵余りの収穫を上げられるまでになった。一般水田でも一反10俵程度だから、ほとんどそん色はない。リンゴ以外の作物なら、無農薬栽培はそれほど難しくなかったのだ。他の作物でこんなに簡単に出来るのだ。リンゴだけが不可能ははずがない。
〇ワンカップを200個くらい並べ、それぞれに田んぼの土を入れて、土をどう耕して、どういう代掻きをして、どんな生育条件を与えれば、稲の育ちが良くなるかを比較したわけだ。~略~。自分が今まで信じてきたことの正反対の結果だった。
〇珍しく弱音を吐いたことがあった。「もう諦めたほうがいいかな」。いつもはおとなしい長女が色をなして怒った。「そんなの嫌だ。なんのために、私たちはこんなに貧乏しているの?」。結局のところ、木村の家族に対する罪悪感が逆に家族を苦しめていたのだ。
〇生きていても家族に迷惑を掛け続けるだけだろう。自分がいなくなれば、みんな今よりは幸せになれるに違いない。無責任極まりない考え方だけど、どうしても自分が死ぬという選択が悪いこととは思えなかった。
〇1991年の秋に青森県を台風が直撃してリンゴ農家が壊滅的な被害を受けたことがある。ところが木村の畑の被害は極めて軽かった。8割以上のリンゴの果実が枝に残っていたのだ。木村のリンゴは実と枝をつなぐ軸が他のものよりもずっと太くて丈夫に育っていたのだ。
もともとは農薬をふんだんに使っていた木村さんが、奥さんが農薬に過敏だったことと一冊の本との出会いから始まる無農薬への挑戦。リンゴの断面を切って長期間置いておくと普通のリンゴは茶色く変色しやがて腐る一方、木村さんのリンゴは腐ることなく、枯れたように小さくしぼみ、赤い色をほのかに残したまま、お菓子のような甘いにおいを放つそうです。一度は食べてみたくなるのは、本書を読んだ必然の結果なのでしょう。
奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録 (幻冬舎文庫)
- 作者: 石川拓治,NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2011/04/12
- メディア: 文庫
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