『低PBR株の逆襲』(菊地正俊)
長年、東証上場企業の約半分がPBR(株価純資産倍率)1倍割れになっている中、2023年3月末に、東証は低PBR企業に対して経営改革の要請を実施しました。PBRが1に満たないということは、株主からしてみれば今すぐ企業を解散して残余財産を分配してもらった方が得という状況。この背景には、株式の持ち合いや経営姿勢ということがあります。企業の成長を促すこと、海外を含めた投資家からの資金が株式市場に流入しやすくすることなど、日本経済を成長に導くための大きな流れが株式市場に来ています。
本書は、そうした流れやPBR1倍割れ企業の実態、企業のPBR1倍割れ解消に向けた取り組みなどが、ざっとまとめられた一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯中長期的にPBR1倍超から1倍割れに低下した主な企業(2023.8.3現在)
本田技研工業、丸紅、日本製鉄、京セラ、日産自動車、三菱重工業、住友金属鉱山、アイシン、T&Dホールディングス、大和証券グループ本社、大阪瓦斯、住友化学、ニコン、野村不動産HD、川崎重工業、東急不動産HD、横浜ゴム、日揮HD、クラレ、大正製薬HD、大和工業、ジェイテクト、住友重機械工業、ヤマダHD、電源開発、SANKYO、トヨタ合成、住友ゴム工業
◯PBRが0.4倍以下の事業会社(2023.10.31時点)
ゴルフダイジェスト・オンライン、双葉電子工業、三協立山、加藤製作所、エイチワン、ティラド、大平洋金属、アースレディ、ヨロズ、駒井ハルテック、愛知製鋼、中越バルブ工業、積水化成品工業、ユニプレス、ゼビオHD、三菱製紙、大日精化工業、日神グループHD、井関農機、シキボウ、三井E&S、荒川化学工業、日本甜菜製糖、カメイ、ホッカンHD、日本製紙、フォスター電機、電源開発、富士・メディア・HD、日本化学工業、朝日放送グループHD
◯ROEが10%超でPBRガ1倍割れの主な企業(2023.10.31時点)
・INPEX、石油資源開発、双日、野村不動産HD、三井化学、出光興産、コスモエネルギーHD、日本製鉄、大同特殊鋼、住友金属鉱山、セイコーエプソン、フクダ電子、いすゞ自動車、三菱自動車工業、マツダ、SUBARU、住友商事、扶養総合リース、みずほリース、日本郵船、商船三井、川崎汽船、電源開発、東京瓦斯
◯評価される低PBR対策の3本柱
①資本コストを意識したROE・ROICの目標
②株主還元、財務戦略の具体策
③事業ポートフォリオの見直しなどの成長戦略
→③では、国内の人口減少や人手不足、グローバルなDX、GX、AI化などの中長期的なトレンドを前提に、既存事業の収益改善と新規事業の成長に向けた具体策が必要。
①利益成長(EBITDAマージン:10%以上)
・売上成長(成長牽引事業の拡大)
・収益性向上(原価改善、プライシング見直し)
・サプライチェーンマネジメント改革、ものづくり改革
②資本効率向上(ROIC:9%以上)
・ROIC重視の事業ポートフォリオ改革
・無線システム事業のソリューション
・保守・メンテナンスサービス比率の拡大
③株主還元・資本コストの最適化(総還元性向:30〜40%目安、D/Eレシオ0.5%以下)
・安定的な配当政策
・機動的な自己株式取得
・最適資本更生によるWACC低減
→そのほか、個社や業界の取り組みがいろいろと紹介されています。
PBR1倍割れ企業からしてみると経営方針に外部から物申されている感じに受け取られるかもしれませんが、上場している意味、投資家の価値観やその価値観に基づいて物申す権利などからしてみると、やはり1倍割れはおかしな状況。大きな流れの中で株式市場全体がどう動くか、役所や東証はさらにどういう施策を打ち出すのか、PBR1倍割れ企業がどのように行動するのか、株式投資や経済について興味のある方は特に追っておきたいテーマだと思います。