『企業合併』(箭内昇)(〇)
ファイナンシャル・リオーガニゼーション(FRO)のDay2で学んだ、RJRナビスコのMBOのケースが本書の第一章の事例で取り上げられていたため、読んでみました。2001年発行。著者は元日本長期信用銀行の行員で、ニューヨーク支店勤務を経験されています。
本書は、数字に特化しているわけではなく、どちらかというとファイナンスの裏側にあるドラマ(駆け引き)に重点を置いた読み物で、文章量も手頃で読みやすい一冊です。ドロドロした合併の舞台裏は、ちょっと惹きつけられる面白さがありました。
(印象に残ったところ‥本書より)
・ブラックマンデー(1987/10)による株価低下(@70ドル近く→@40ドル台前半まで下落)→KKR、クーデーターで追放した元RJRナビスコ会長の買収打診
⇒ロスジョンソン会長:「自社を買い取れば上場は廃止され非公開となるので、乗っ取られる心配はないし、うるさい株主の目を気にしなくて済む」
・7人の経営陣:買収価格@75ドル→KKRがTOB(公開買い付け)発表:@90ドル
・最終的には、再入札にまでもつれ、経営陣:@112ドル(一部金額不確定要素あり)、KKR:@109ドル(金額確定)
・結果、KKRが落札。経営者にルイ・ガースナーを招聘し、リストラの大なたを振るうが、海外タバコ部門はJTに売却される。
・入札に敗れたジョンソン会長(強欲で批判を浴びていた)は、ゴールデンパラシュートで約63億円を取得。結果的に、ゴールデンパラシュート条項が放漫経営者を利するという笑えない喜劇。
〇タイムとワーナーの合併
・ケーブルテレビを持つタイム社が、ケーブルに乗せるコンテンツとして映画製作会社を持つワーナーコミュニケーションを合併すると発表
・合意に至る直前に、パラマウント社がワーナー社に買収を仕掛ける
・パラマウント社の提示:@175ドル、タイム社はTOB発表:@70ドル
‥タイム社とワーナー社は相思相愛であり、敵対的買収の防衛策として実施
・法廷論争
<パラマウント社の主張>
「レブロン判例」‥企業がひとたび「経営権の売却」を決定した場合は、ひたすら株主の利益だけを考え、最も有利な条件を出した企業に売却すべし
<結果>
タイム社とワーナー社の合併は両者の経営戦略に基づくものであって、「経営権の売却」には該当しない(タイム判例)
→合併が経営戦略上、有意義であればレブロン判例の適用は受けず、他からの高値の買収攻撃があっても排除できるというM&Aの法律戦略上重要な判例となった。
〇三井物産大合同(金看板争奪戦)
・1947年:GHQによる財閥解体命令→三井物産解体。いかなる会社も三井物産の名称を使ってはならないとの取り決めがなされた。
・1952年11月:第一物産が互洋貿易を買収。
・1953年2月<金看板争奪戦第一幕>
室町物産が旧日東倉庫建物(三井物産に改称。法的承継者との意識があり当然合同の中心になると考えていた)を買収し、三井物産の看板を奪う。
・1955年春<金看板争奪戦第二幕>
・三井グループが動き出し、両者が合併することになる。社名、合併比率などの条件が噛み合わず、一時は、交渉打ち切り寸前にまで至る泥沼状態になったが、称号問題が発生してから7年かけてようや収束した。
本書では他にも、スイス銀行の合併、三菱商事大合同、海運大再編、新日鉄誕生と幻の「大」王子製紙など、大企業の合併を巡る物語が掲載されています。
企業と投資家、企業と企業。損得勘定や会社に賭ける思い、使命感、、、「関係者×価値観」という掛け算をまとめるのは一大難業であることを垣間見ることができました。きれいな結論だけを見て「そうなんだ」と納得しないよう注意しないと。