2015年12月に発売された塩野七生さんの最新作。年末に『徳川家康』(山岡荘八)全26巻を読み終え、次は、『ローマ人の物語』かと思っていたところへの新刊発売でしたので、急遽こちらを読むことに。塩野七生さんの著書は、実ははじめてでしたが、著者の見解や感想に惹きこまれながら歴史の流れがよく分かり、とにかくおもしろい!。
シリーズは全3巻で、本書は紀元前8世紀~紀元前5世紀まで。スパルタとアテネの創生期から、第一次・第二次ペルシア戦役が本書の中心。数では圧倒的に劣勢なギリシア連合がペルシアに挑む様やその戦略が魅力です。
(印象に残ったところ‥本書より)
骨子はネタバレに配慮し、割愛します。
〇この作品の中では、民主主義はどうあるべきとか、民生政下のリーダーはどうこうどうすべきか、また有権者の側はそれにどう関与すべきか、についてはいっさい言及されない。その代わり、なぜ彼らは、それまでは誰一人考えつかなかった、民主政を創りだす気になったのか。いつ誰が、どのようにしてそれを機能させ、また国家存亡の危機に関しても有権者はどう関与し、なぜそれが可能であったのか、そしてその後はどのような結果に繋がっていったのか、という事柄のすべてをたどることになるだろう。
〇古代のギリシアにはギリシアという国は存在しなかった。ギリシア人はいたが、ギリシアはなかった(都市国家が群雄割拠)。
〇ギリシアの土地は痩せている。そのうえ狭い。イタリアと比べてもギリシアの地勢は複雑。
〇スパルタ:紀元前8世紀ごろ、リクルゴスによる「憲法」が制定され、身分制度や政体が整備。スパルタでは子供が生まれると監督官による試験を受け戦士として恥ずかしくない肉体に育つと判定された赤子だけがスパルタ人として育つことを許される。7歳から20歳まで集団で戦士として育てられ、ギリシア一の重装歩兵が作られる。
〇アテネ:紀元前594年ソロンによる改革が始まる(貴族政から民主政へ)。紀元前546年ペイシストラトスによるクーデター。紀元前508年クレイステネスによる改革で10の行政区(トリプス)に区分。
〇陶片追放
「害をもたらす可能性のある人物」を、一年に一回以内で、6000人以上が投票し、過半数に達した人物は、10年間国外追放される。この陶片追放が政敵を排除する手段として、アテネの歴史の要所要所で何度も登場します。
〇「モロン・ラベ(Molon Labe)」(取りに来たらよかろう)
圧倒的数的優位のペルシア王から「武器を差し出せば、各自への自由な帰国を許す」というい使者を一蹴。後生、スパルタの戦士と言えば返ってくる、山びこのような一句。
〇説得力とは、他者をも自分の考えに巻き込む能力である。他者の意見を尊重し、それを受け入れ歩み寄ることによって、着地点を見出すことではない。
〇民衆とは期待が大きければ大きいほど、その通りにならなかった場合の失望も大きくなる生き物である。過大な期待を抱いた自分たち自身を反省するのではなく、味わった失望の大きさをより強く感じ、その失望をもたらした当の人を憎む性質がある。
〇「自己制御」は「持続する意思」と表裏の関係を成す、人間にしかない能力。
〇正論を言うのなら、初めからそうしていれば良いものを、と思ってしまうが、人間世界はそうは単純にはできていない。人間とは、既成事実のない段階で正論を聴かされても、必ずどこか文句をつける箇所を見つけるものである。それが、既成事実を前にして正論を説かれると、本心からは納得しなくても、まあそれでよしとしようという、対応も穏やかに変わる場合が多い。
「今から2500年も前にこんなことが繰り広げられていたなんて!」と思うだけで興味が湧いてくる。長い時間が経過しても、人間の思考・行動のそもそも論は今にも通じる内容です。歴史書ですが、かなり線を引きました。早くもⅡ巻が待ち遠しいですが、2016年末販売予定。。。それまで、『ローマ人の物語』を読んで待つことにします。