『無理の構造』(細谷功)(〇)
「世の中の理不尽さ」のメカニズムを可視化し、無駄な抵抗を少しでもなくそうとすることを目的として書かれた本書。理不尽の元凶は、「対称性の錯覚」のように、自然な流れや法則に逆らって、本来同等でないものを同等だと思い込んでいる、『私たちの頭の中』であるという気づきを与えてくれる内容です。コミュニケーションの改善に役立つと思います。
■ひとことメモ
水は低きに流れる。対称性の錯覚に注意。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇対称性の錯覚
本当は対称ではないものを対称だと勘違いしていること。
・具体⇔抽象
抽象レベルを理解している人には具体が見えるが、具体しか見えていない人には抽象レベルは見えない。
⇒具体レベルを十分承知して単純化した抽象レベルでメッセージを発すると、「あの人は現場を分かっていない」となる
・覚える⇔忘れる、知っている⇔知らない、無知⇔既知、なども同じ構図
〇二円図
「会社と自分」「仕事と遊び」「理想と現実」「運と実力」など、2つの事象を3×3のマトリックスで考えると相手との思考のズレを掴める。
・2つの円の大小関係(A>B、A=B、A<B)
・2つの円の交接関係(2つの円が離れている、交わっている、包含されている)
〇水は低きに流れる
片側へは自然に流れるが、逆方向に戻すには大変な労力が必要。
・厳しいものから楽な方へは自然に流れるが、逆は相当の覚悟が必要。
・思考状態から停止状態へと流れやすい。
・刺激はどんどん強いものを欲していく
・一度手に入れたものはなかなか手放せない
・生活レベルを上げるのは簡単だが、下げるのは難しい
〇判官贔屓(はんがんびいき)
・天才よりは努力の人
・勉強ができる子より勉強以外ができる子
・高学歴よりは低学歴
・生まれながらのエリートよりは叩き上げ
〇1:9ねじれの法則
実体としての人数や必要な場面での数は1:9であるのに対し、あるべき姿として公の場で語られる割合は9:1
・世の中を変える人と動かしている人
・見えている人と見えてない人
・プレイヤーと観客
・本当に自分で目利きができる少数の人と、それに同調する多数の人
〇時間の不可逆性
いつでも逆に戻せると思っていても、実は逆向けに動かすのは多大な労力が必要となり、いずれは劣化の方向に動いていく。
・個性的な人が少なくなって、集団全体が個性のない集団へと変わっていく
・少数の人たちが特権階級を独占する状態から、多数の人による民主化の流れ
・はじめは少なかったルールや規則が、何らかの事件やトラブルのたびに増えていき、組織の前提が性善説から性悪説に流れていく
〇具体化・細分化の法則
「難しく抽象度の高いもの」から「やさしく分かりやすいもの」になっていく
・政策から政局へ
・教養番組からバラエティへ
〇上流・下流の法則
・「上流の岩」は、大きく、尖っていて、形がみな違う。「下流の岩」は、小粒で、丸くて、皆同じ形。
・「上流の社会や組織の人材」(スタートアップ、企画段階、変革期)は、大物で、アクが強く、個性的。「下流の社会や組織の人材」(伝統的大企業、実行段階、安定期)は、小粒で丸くて個性がない。
・個人の個性が重要な上流。組織の規律が重要な下流
・個人技で進める上流、仕組み化が重要な下流
・理想が重要な上流、現実が重要な下流
・フラットな関係が重要な上流、階層関係が重要な下流
〇のこぎりの法則(増えだしたら止まらない)
自然に任せれば増える一方で減少させることが難しい。何かあったらどうするんだという話になれば誰も責任を取りたくないので、結局なかなか減らせない。
・ルールや法則、会議、信号機、特急の停車駅、テレビのチャンネル、リモコンのボタン、電子機器の機能とマニュアルのページ、スマホのアプリのアイコン・・)
〇折り曲げの法則
対極は紙一重。「長所⇔?」「成功⇔?」「チャンス⇔?」。
・「長所&短所」⇔特徴がない
・「成功&失敗」⇔なにもしない
・「ピンチ&チャンス」⇔何も起こらない
〇自分と他人の非対称性
・他人に一番話対のは愚痴と自慢だが、一番聞きたくないのもその2つ
・中途半端に覚えたことを他人にアドバイスしたいが、中途半端に覚えたことを上から目線でいわれるのは腹立つ
・自分のことは特別だと思うが、他人のことは一般化して考える
・自分の成功は実力だと思うが、他人の成功は運が良かったと思う。失敗はその逆。
〇マジックミラーの法則
見えている人には見えていない人が見えるが、見えていない人には見えている人が見えない。
「おっと、マズイマズイ」が連発する内容でした。いかに自分の頭が凝り固まっているか、思考のワナに気付いていないか、考えさせられることが多い一冊でした。しかも、挿絵と文章が分かりやすい!