『選択と捨象』(冨山和彦)
「選択と捨象」とは、選ぶことは捨てること。会社はどんなに大きくても必ず寿命があり、それが当たり前であることを前提にトップは経営し、働き手も備えないといけない。企業が淘汰されることは善か悪か?
本書では、著者が産業再生機構時代に携わられた、カネボウ、三井鉱山、ダイエー、JALの事例や地方再生を取り上げながら、選択と捨象が意味する現実が書かれています。
(印象に残ったところ)
〇選択と捨象
「選択と集中」とよく言われるが、大事なのは単に「集中」することではなく、あれかこれかと選択したうえで、選ばれなかった事業や機能を「捨てる」こと。
〇イノベーションを起こすのは、常に若くて小さい会社。
大企業は大きいことを前提に、素晴らしい大人の会社に、素敵に成熟した会社としてさらに発展することを考えればよい。会社は古くなるとなかなか変われないため、取り得る手段は2つ。
①若くて小さな会社を取り込む
②古くて大きいことが有利なところへ事業ドメインのシフトやビジネスモデルの転換を継続する
〇会社がなくなっても事業として残ればよい。
雇用は会社がつくるものではなく、事業がつくっている。会社はあくまで事業をやるための箱に過ぎない。事業を生かすための事業譲渡で会社の箱を変えるのは当たり前の話。
だが、事業を残して雇用を守るという発想を日本企業の多くは持たない。共同体である会社の存続を目的とすることが多い日本企業は、調和を壊そうとする人を経営トップには持ってこないので、なかなかとりにくい考え方。
〇情理と合理
企業経営の本質は、共同体の基本原則をよく理解し、特長を活かしながら、その弱点も踏まえつつ、外部の環境変化と折り合いを付けていくこと。「情理」(共同体の構成員としての人々の行動原理)を理解し使いこなしつつ、「合理」(市場競争の経済原理)に基づく冷徹な判断と両立させること。
「あれもこれも」(多角化)で乗り越えられるのか、「あれかこれか」(選択と集中)なのか。あらゆる情を排して、客観的かつ冷徹に判断しないといけない。
〇産業再生機構で携わった41社の共通項
・問題を先送りしようという体質。
〇G(グローバル)とL(ローカル)
・Lの企業群にとって、無理やり世界に出ていってアウェイの戦いを挑むよりも、まずは自分の得意な市場で地域ドミナントを創り、さらに密度を濃くして生産性を高めていく戦略をとることが大事。Lの経済圏では、地域と顧客に密着して、精緻に緻密に執念深く経営することが全ての出発。
・Lの世界は労働集約的勝つ国内で顧客と対面してサービスを提供するしかない。生産労働人口の選考減少に起因するL型産業での人手不足は、構造的・慢性的にならざるを得ない。
・Lの世界の経済活動は、密度と集積が重要なので、住民もできるだけ1カ所に移り住んだほうがいい。それによって供給側の生産性は上がるし、需要側にとっては享受できるサービスの質は高まる。
・消滅危機にある市町村をすべて無理やり延命することは、Lの世界を持続的に発展することにつながらない。多くの中小都市をスムーズに撤退・消滅させて、地方の中核都市に人が集まれば、労働生産性と賃金は上昇し、サービスの質も向上する。
「情理と合理」という言葉通り、両者のバランスは大事にしつつも、ついつい目を背けたがる冷徹な部分について、ズバッと切り込んで描かれています。「合理」で話をすると「冷たい人」と言われそうで、「情理」に偏りがちですが、意識して合理を使わないと、著者がおっしゃるとおり、「問題の先送り」に過ぎないのだと思いました。ムラ社会の狭い日本と経済合理性の両立。経営者の役割が問われる命題だと感じました。