『生きている会社、死んでいる会社』(遠藤功)(◯)
「生きている」とは単に存在することでなく、数字だけで判断できるものでもない。会社全体が大きな熱を帯び、理詰めで考え、行動し、新たな創造に向かって社員が奮い立っている会社。創造に長けている会社は、新陳代謝にも長けている。一方、「死んでいる」会社は、著しく代謝が悪い。本書は、どうしたら「生きている会社」を作ることができるのかをまとめた、内容の濃い一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯会社の目的
「社会や顧客が求める(歓迎する)独自価値を創造する」
◯会社の本質
・「稼ぐ」力を高めることは目的ではない。あくまで手段。なんのために稼ぐのか。それは挑戦するため。挑戦こそが会社にとって何より大事。攻めを忘れた会社は、魅力がないばかりか、必ず衰退し、いずれ滅びる。挑戦を「会社の文化」にまで高めなくては、「生きている会社」にはなれない。
◯新陳代謝
・大組織の内部に、どうデーワン(1日目)の活力を保つか(Amazon ベゾスCEO)。デーツー(2日目)の会社は、「死んでいる会社」。
・新陳代謝とは、「捨てる」「やめる」「入れ替える」。
・「生きている会社」とは、「挑戦ー実践ー創造ー代謝」という循環が回り続け、常に「デーワン」の状態を保っている会社。
◯死んでいる会社
・「 管理ー抑制ー停滞ー閉塞」の循環。
・管理部門肥大化による官僚主義は、「オーバー・アナリシス」「オーバー・プランニング」「オーバー・コンプライアンス」
・管理という仕事には、「歯止め」がない。精緻にやろうと思えば、いくらでも細分化し、緻密化することができる。
・管理が強くなると、全てのリスクを粗探ししようとする。リスク分析、リスク管理が経営に必要であることは認めるが、あらかじめ全てのリスクを見通すことはできない。経営の本質はリスクテイクなのだから、「やってみなければ分からないこと」「やってみたからこそわかること」が山ほどある。
◯「建設的対立」が起きないのは、老化の兆候
・「すぐにまとまる会議が増え始めたら要注意」。事なかれ主義が生まれ、「建設的対立」が起きないことは、間違いなく廊下の釣行。過去の成功は未来を保証しないばかりか、新たな創造を大きく阻害する。
◯経営とは「引き算」
・新陳代謝とは、「引き算」。何かを捨てなければ、新しいものは得られない。何を新陳代謝すればいいか。それは、「事業」「業務」「組織」「人」。
・当たり前だと思っていることに対して、あえて否定的な問いかけをし、思い切ってメスを入れる。明確な意思がなければ「引き算」はできない。会社という「生命体」は、新陳代謝を繰り返すことによってのみ活性化し、「生きている」状態を保つことができる。
◯生きている会社の3つの条件
・「熱」+「理」+「情」=「利」
①「熱」(ほとばしる情熱)
②「理」(徹底した理詰め)
③「情」(社員たちの心の充足)
・会社には、「経済体」「共同体」「生命体」の3つの側面がある。
「熱」は生命体からもたらされ、「理」は経済体から生まれ、「情」は共同体と深く関係する
◯生きている会社は「熱」を帯びている。
・熱を帯びるための3つの論点
①「熱」はどこから来るのか
会社が熱を帯びる方法、それはたった一つしかない。経営トップが信じる「会社の目的」や「思い」「信念」を自らの言葉で語り、自ら汗をかき行動すること。「会社の目的」、すなわち「自分たちは何のために存在するのか」を語ることはトップにしかできない。自らが火だるまになって、自らが信じることをやり遂げようとしているか。「熱」はそこの行動から生まれ、社員たちへと波及していく。
②「熱」はどうしたら広がるのか
理念を策定するのに、社員の意見を聞く必要などない。理念は会社の存在理由であり、会社の「中心」である。それは経営トップが自らの心に問いかけ、決すべきものである。
・「共有」から「共感」へ。頭で理解するのではなく、心で感じること。
③失ってしまった「熱」をどう取り戻すか
1)原点に戻る:「デーワン」の時の目的や理想に立ち返る。
2)未来志向で新たな理想を掲げる
◯生きている会社は「理」を探求している
・真に理詰めであろうとするならば、大切なのは現実と向き合い、「事実」に徹底的にこだわること。現場・現物・現実を重視する「三現主義」を経営の根底にしっかりと据えなくてはならない。
・戦略レベルの「理」:「会社は何を営むべきか」という大きな事業の方向性を定める段階において、理詰めでなくてはならない。戦略は「差別化シナリオ」。
1)「適社性」を重視する(選択と集中)
2)中長期的視点で洞察し、決断する
3)「コア」を育てる
4)スピーディーかつ粛々と代謝を進める
・実行レベルの「理」:VUCA・・不安定性、不確実性、複雑性、曖昧模糊を生き抜くには、戦略とケイパビリティを両輪に据えた複眼的な経営が求められている。
1)実行を「科学」する
2)スピードを武器にする
3)「微差力」を磨く
4)ナレッジ・ワーカーを育てる
◯生きている会社は「情」に満ち溢れている
・最も深刻な老化は身体的な衰えではなく、「感情の老化」。
・「マネジメントtのほとんどがあらゆる資源のうち人が最も活用されず、その潜在能力も開発されていないことを知っている。だが現実には、人んマネジメントに関する従来のアプローチのほとんどが、人を資源としてではなく、問題、雑事、費用、脅威として扱っている」(ドラッカー)。
・「やりがい」+「承認」=「心の充足」
・知には情を説得する力がない。どうしたらやりがいを作ることができるのか。
1)「教会」を見せる
職人に対し、レンガを積むのでもなく、生活のためでもなく、教会を建てているというミッションを見せる。生きている会社で働く人はミッションを遂行し、死んでいる会社で働く人はタスクをこなす日々に追われている。
2)適度なストレスを感じる仕事を与える
3)任せ切る
失敗や挫折を他責ではなく、自責と捉えることで人は成長する。人の期待に応えようとすることほど、人が成長する場面はない。
・無関心こそ最大の敵
承認欲求が充たされていない現場は無表情。単なる作業マシーン化は死んでいる会社の典型的な症状。
◯実践すべき「10の基本原則」
①代謝のメカニズムを埋め込む
②「ありたい姿」をぶち上げる
③骨太かつシンプルな「大戦略」を定める
④「必死のコミュニケーション」に務める
⑤オルガナイズ・スモール(小さいチームをたくさん作る)
⑥「実験カンパニー」になる
⑦「言える化」を大切にする
⑧みんなでよい「空気」をつくる
⑨管理を最小化する
⑩リスペクトを忘れない
◯突破するミドルを作る
①観察する力
②跳ぶ力
③伝える力
④はみ出る力
⑤束ねる力
⑥粘る力
◯経営者の4つの仕事
①扇動者
②羅針盤
③指揮者
④演出家
最後まで線引きが途絶えなかった本書は、経営者やビジネスリーダーに高い視座から経営を特に人や組織めんから考えるための一冊でした。結局人が働く組織である以上、人がどこまで活性化して価値を生み出すのか。永遠のテーマであることに変わりはないと思います。自分自身でも実践を繰り返し、考え続けることで、経験を積み重ねるしかないかなと感じています。今月、本書の出版講演会を聞きに行けることが決まったので、それも楽しみです。