『なぜ20代女子社員は超ヒット商品を生み出せたか』(勝見明)
マーケティングⅡの授業でキーワードとなった「顧客接点」。実務でマーケティングに携わる機会がないため、できるだけ具体的なイメージが湧くような書籍を探していたところ、目に留まった本です。
主人公の20代の女性社員が、キリンフリーを大ヒットに結び付ける紆余曲折が回想録として表現されている、現場感覚がリアルに伝わってくる一冊でした。
開発プロセスや関係者の巻き込み(人間関係の構築)といった社内を舞台とした物語なのですが、関係者を巻き込みながら、顧客視点で商品を開発していくというプロセスはまさに顧客接点なのだと思いました。
これまで学んできた、フレームワークやマーケティングリサーチでは見えない、具体的な実務の世界を垣間見ることができた気がします。
(印象に残ったところ‥本書より抜粋)
〇キリンフリーは完全ノンアルコールビールのビール風味飲料という、内容がシンプルで分かりやすい商品。だから、それが全く新しい価値を持つことを伝えるのが難しい。キリンフリーの大ヒットは、味の追求とともに、コンセプトの掘り下げと顧客に対するコミュニケーションの一大成果だった。顧客は目の前に提示されて初めて、こんな商品が欲しかったと気づくもの。
〇主人公は、前職のユニリーバでは、「コンシューマインサイトをきちんととらえているか」を問われた。キリンでは、「商品開発で一番大事なのは想い。それは開発する人間にとってプライドのようなもの」と教えられた。この2つは表裏一体のものだと、次第に分かってきた。
〇作り手がモノの価値を生み出し、ユーザーが対価を払って消費する時代から、作り手がモノをとおして新しいコトを提案し、作り手とユーザーがともに価値をつくる共創の時代に変わってきた。主人公は、お酒は好きだけど飲まないときもある「際の人間」だったので、もしこんな商品が出たらどんな世の中になるのだろうかと、「際の人間」として発想し、「お酒と人間の関係を変える」というビジョンを導き出した。
〇部長から与えられた「アルコールゼロの飲んでも安心してクルマを運転できるビール」というテーマ(形式知)を掘り下げるにあたり、がっちりした会議でなく、「こたつミーティング」という、緩いブレスト法、言葉を紙に書き出すことで形にしていった。
〇グループインタビューでも高い支持を得た「クルマと生きる人類へ」というキャッチコピー。基本コンセプトとしては良いが、クルマの運転を想起させる広告という、ビール会社にとってのタブーの壁を越えられず経営会議で否定された。その後、ダメ出しの時期が続いたが、メンバーのモチベーション維持に向けた気配りと粘りが成功につながった。 キリンフリーの開発物語は、「思い」を表す言葉探しの旅だった。ひとたびみんなが共感できる言葉に到達したとき、組織は大きく動き出した。それが「世界初、アルコール0.00%」。
〇商品開発とは消費者の好意をめぐるバトル。コンセプトが正しいかどうかの優等生ゲームではなく、一瞬にして好意を獲得できるかどうかの単純な魅力度ゲーム。2秒が勝負で瞬間的に魅力が伝わらない限り、生き残れない。コンセプトを前面に押し出すだけではダメで、名は体を表せるコピーができたとき、それはコンセプトを超える。コンセプトは自分の憲法として置いておけばよい。何かあったら、必ず戻る場所。大切なのは、そこをプラットフォームにして、2秒で良さが伝わる表現を考えられるかどうか。(主人公の上司で缶コーヒーFIREの開発者)
本書をきっかけに興味を持ったノンアルコール飲料。最近、キリンフリーだけでなく、各社の商品を飲み比べています。
味は、ビールとは違う、ビールテイスト飲料なのですが、慣れてくるとこれが一つの基準になってきます。ビールを飲んだ満足感はあるけど、酔わないので、夜の時間もいろいろと使えるようになりました。
「でもやっぱり酔いたい」と思うときは、普通にビールに戻ります。こうやって、消費者が「こんな時はビール、こんな時はノンアルコール」って、自分で商品を飲むシチュエーションを考えていくことが、メーカーさんにとってのコトづくりなんだなと思いました。