『サービスを制するものはビジネスを制する』(グロービス経営大学院/山口英彦)(〇)
すべてのビジネスにはサービスが内包されている。サービスは特定の産業ではなく、すべてのビジネスが成立するのに必要な機能であるという発想のもと、まとめられた本書。サービスに関する多くの視点がよくまとまっている良書です。「自社にとってのサービス」を考えるきっかけとして役立つと思います。
■ひとことまとめ
特性は無形・同時・消滅・変動。サービスは業界を問わない競争優位の源泉。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇本書で意識されている観点
①サービスに関する先入観の刷新
②サービス経営に関する体系感
③サービスの実務への橋渡し
④サービスの現場の問題意識とのマッチ
⑤豊富なサービス事例の紹介
〇サービスをはじめる
・サービスの特性
①無形性:営業・マーケティングの難しさ
②同時性:サービス現場に従業員と顧客の双方が居合わせる必要
③消滅性:失敗してもやり直しが効かない
④変動性(異質性):品質のブレ。カスタマイズは手間(コスト)負担要因
・サーバクション
サービスの結果を決定づける要素
①サービスを受ける顧客
②サービスを担当する従業員
③サービスを提供する設備・施設(物的環境)
④その場に居合わせた他の顧客
⑤サービス提供を背後で支える内部システム・組織
・サービス価値の方程式
(カスタマーにとっての結果+サービス提供のクオリティ)/(売価+入手コスト)
・サービスコンセプト
①ターゲット、②提供価値(明文化の必要、顧客が自前で済ませるという選択肢と競合関係にある)
・サービスのビジネスモデル設計
模倣困難性、コスト競争力強化、規模化のシナリオを構築に繋げる。
①ターゲットと顧客への提供価値
②カギとなるオペレーションとそれを支える仕組みや経営資源
③収益モデル(誰から、何の対価として、いくらを、どのタイミングで、どうやって、受け取るか)
〇サービスで魅せる
・顧客満足
①誰を満足させるか(星野リゾート星野社長のコメント引用)
「全員に満足してもらうことは非常に効率が悪いし、不可能に近い」「自分の価値観にあったお客さまを探して、その要望に120%応えていく方向に持って行った方が良い」
②何で頑張るかを決める(表層サービス+本質サービスで考える)
③パフォーマンスを可視化する(放っておくとサービスパフォーマンスがよく分からないばかりか、顧客自身がサービスを受けていることさえ忘れてしまう)
④認知作用を使う(サービスのエンディングに力を入れよ)
・サービス・プロフィット・チェーン
(オペレーション戦略とサービス提供システム)
①社内サービスの質⇒従業員満足
②従業員ロイヤルティ
③従業員の生産性
(サービス・コンセプト)
④サービスの価値
(ターゲット・マーケット)
⑤顧客満足
⑥顧客ロイヤルティ
⇒売上拡大・利益向上
・サービスマーケティングの7P
①process(サービス手順、ノウハウ、方法論)、②physical Evidence(視覚で感知できる)、③people(従業員、サービスの現場を共有する他の顧客)、④~⑦マーケティグの4P(product、price、place、promotion)
〇サービスで稼ぐ
・サービスの安定化策
①従業員のスキルとウィル(やる気)の向上
②分業化(なるべく同じ人が担当する)
③集約化(同じ場所で、同じタイミングでサービスを実施)
④顧客の絞り込み
⑤標準化(同じ内容のサービス、同じ方法)
⑥モノへの置き換え
・労働生産性の定義式
付加価値(又は売上総利益)/労働投入量
・労働投入量の削減
①ムダとり、②作業スピード向上、③労働力の代替
・付加価値増加
①サービス価格up、②利用顧客数増加、③利用サービス拡大
・需給マッチング
①需要平準化(オフピーク時利用へ誘導、ピーク時のサービス量軽減、補完需要の創出、需要の集約)
②供給コントロール(シフト勤務制度、経営資源の多目的利用、外部資源の活用、顧客との共創)
〇サービスを広げる
・成長のアプローチ
①既存サービスの改善を続ける
②営業エリアを広げる
③サービスのラインアップを増やす
④新たなサービス事業に参入する
・サービス現場の環境整備
①提携部分の標準化・自働化
②現場への裁量権限の付与
③従業員間での事例共有
・育成上の工夫
①技の意図を読み取る訓練
②顧客視点でのフィードバック
③失敗から学ばせる
検討の視点をピックアップするだけでも相当の量になりますね。いずれの視点も自分が携わる業界に当てはめてみると、そこから改善の発想が広がっていきそうです。サービスの着眼点を身につけることは、経営を診る上で武器をひとつ得たと言ってよいくらい大事な要素だと思いました。