『心を揺さぶる語り方』(一龍齋貞水)(〇)
本書は、人間国宝であり、講談師の一龍齋さんが、人が人に話をする中で大切なことは何か、心を揺さぶる語りの極意を記した書籍です。一般の人に分かりやすく、平易に書かれていますが、単なる話術の本ではなく、話し手の人間性にまで触れる深い内容であり、日々の生活にもとても参考になると思います。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇「『らしく』しなさい、『ぶる』んじゃない」
前座は前座らしくが一番いい。真打のようなしゃべりは、お客さんからそっぽを向かれる。話にはその人の人生経験、年齢なりの声や風貌、培ってきた知識、仕事に向かう情熱、熱意、思いやり‥、要するにその人の生きざますべてが話の中に出る。話術は人間の中身が伴って初めて価値が出る。その人の人間性を表すものの一部が話術。
〇場の「空気」を読めるか読めないかは、一つには思いやりの差。普段から相手の身になって物事を考えているかどうか
話というのは自分が何を言ったかではなく、相手にどう伝わったかが大事。それが分かっていない人は、自分の言いたいことをしゃべって満足する。そういう人がいくら場数を踏んでも、場の「空気」を読めるようにはならない。普段から相手の身になって考えられるかということが人前で話すときの場の「空気」を読めるかということにかかわってくる。そのうえで、経験(場数)が必要。
〇話の「枕」
いきなり本題に入るのではなく、少し余計な話をしながら、その日の相手の雰囲気を探っていく。そのために当たり障りのない話題を用意しておくのもいい。
〇聞き手は頭が疲れても一休みできない。だから、一休みの場面を語り手が用意する
余談で気を付けるのは、タイミングと量。聴き手の様子を見て、「疲れてきたな」というタイミングで入れる。
〇声と滑舌を鍛えるには
決闘のような勇ましい場面を読むこと。
〇盛り込みたい言葉を多少削ってでも、リズムをよくしたほうがいい場合がある
人前で話をするとき、言葉のリズムは大きな要素。原稿を読む形で人前で話すなら、少なくとも繰り返し音読し、リズムを確かめたほうが良い。
〇自分らしい表現とは、結果
この一席で何を表現したいのかということを自分なりに真剣に考えること。内部の燃焼力を養う。登場人物たちがその時どういう気持ちかを真剣に考える。心を動かす話術とは、まず第一に一生懸命に考え、準備をし、心を込めて語った結果であるべき。
〇「間」
「間」というのは、一つにはお客様が話を理解し、自分で考えたり、わが身に置き換えて想像したりするための時間。それがなさすぎる話では、お客様が心を動かす暇もない。逆に、「間」がありすぎると、間延びした話になってしまう。「間」はその場その場のお客様との駆け引きの中で生まれてくるものなので、マニュアル化はできない。そういう要素を全部ひっくるめて、「間」と呼んでいる。
〇自分なりの話術は自分で努力して見つけていくしかない
一つの過程として、人を真似ることも経ながら、自分なりの魅力的な話し方を見つけていく。そうやって身に付けた話し方は、一生の武器になるものだと思う。
〇話術は現場でしか学べない
職業上の話術を身に付けたいのであれば、まずは上手いと思う人と一緒に現場へ行ってそばで見せてもらうのが一番。表面的な言葉づかいだけでなく、場の「空気」を読みながらの対応、駆け引き、相手との阿吽の呼吸のようなものを見て習う。それをできるだけ早く、実践の中で試してみる。それが職業上の話術を習得する一番の近道だと思う。
話術と難しく考えなくてもいいんだ。自分が伝えたいことを相手のこと思いながら真剣に考え抜いて、自分の言葉で、自分らしく伝えればいいんだ。
そんな、気負わなくていいんだという気持ちと、自然体だけではなくて、相手を思いやれば自ずと計算する部分もあるという両面。人前で話すときは、これの両面を意識して臨みたいと思います。