『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』
タイトルを見て、これはオリジナリティありそうと思って、即買いしました。
著者は、阪急電鉄の駅務員、車掌、運転手など、電鉄の現場からスタートした方で、およそ、タカラヅカからすれば、異業種からトップが送り込まれた感じかもしれませんが、そこが複合事業体の面白いところかもしれません。
本書は、ビジネスモデルの観点からタカラヅカを切った、経営戦略本です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ビジネスモデルの全体像
①歌劇作品を「創って作って売る」垂直統合システムの存在
「企画制作・製作・販促営業」が一気通貫で顧客に提供される
②興行ビジネスで最も重要な「自主制作」「主催興行」の質・量両面での充実
③卓越した独特の著作権管理手法
④地方での興行を上手く取り込んだ実質的ロングラン興行戦略の実践
〇5つのビジネスユニットと収益貢献策
①一つの作品を同一年度内に二つの異なる組で上演したり、1本立ての作品を組み込んだりすることによって、コストを引き下げる
②外部への売り興行において、2年続けて同じ組が同一興行に当たらないように配慮する
③トップスターの退団がすでに決まっている場合、当該公演の代替客による貸切公演回数を極力減らして利益率を上げる
〇垂直度の高いビジネスモデル×独特の「美意識」「世界観」の醸成
効率性をより重視したが故に、宝塚大劇場周辺に衣裳・道具の制作場や歌劇団事務所、稽古場、そして宝塚音楽学校といった関連施設が集中して設置され、おのずと「垂直統合度」の高いビジネスモデルが形成された。
宝塚歌劇団に雇用されている団員である作家・演出家がほぼすべての宝塚歌劇作品を作っており、これが「垂直統合」のメリットをより際立たせ、かつタカラヅカ独自・独特の「美意識」「世界観」を醸成している。
〇著作権管理
著作権管理について、作品を発想・企画した作家・演出家ではなく、宝塚歌劇団が基本的に作品の著作権を買い取る仕組み。阪急電鉄グループがリスクを背負う強力な後ろ盾となっている、独自の仕組み。
〇全国ツアー対策
全国ツアーは新規製作コストがゼロに近い。ただし、ホールによる装置や舞台袖のスペースの違いを考慮し、演目の道具類を初演の大会場向けに製作する段階で、全国ツアー向けに流用できるように考えられている。細かく対応しようとすれば、手間と共にコストもかかって利益低下を招いてしまう。
〇AKB48のビジネスモデルとの共通点
「シロウトの神格化」
未完成をファンコミュニティがともにバージョンアップしていく。タカラヅカなら、宝塚歌劇団に入団してから、彼女たち全員の最終目標である、トップスター就任までのプロセスおよびそれにかかわるファンコミュニティのアクセス全般の事象。
〇先味・中味・後味
先味とは、「おいしそうだと思うこと」、中味とは「美味しいと思うこと」、後味とは、「美味しかった、また食べたい」と思うこと。
先味、これこそがエンターテイメントの更なる充実のためには最も重要。それは、チケットの売上パターンが変化してきたから。昔は、予約完売したが、今は、最の平日6公演で面白そうという話がSNSなどで広まったら、残りのチケットが売れというパターン。
ほかにも、人材育成・選抜関係の記載も興味深かったです。
最後のAKBとの比較は、類似点と相違点の比較が意外に面白く、「そういえば・・!」と気づかされました。まったく違うようで、実は似ている・・。経営は、面白いですね(^^)