『ザ・会社改造』(三枝匡)(〇)
前ミスミ社長の著者は、『V字回復の経営』『戦略プロフェッショナル』『戦略プロフェッショナル』の企業再生3部作が有名ですが、本書は、2002年にミスミにCEOとして招聘されてからの、ミスミの会社改造を描いた一冊です。3部作と大きく異なるのは、すべて実名で、社員から集めた声も回想録として紹介されている点。即ち、改革の手法やその場の雰囲気をとてもリアルに感じることができる点が魅力的なお薦めの良書です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇自社の事業モデルが優れているのに、その「構造」が整理されていない会社は、「事業モデル」という切り口で議論することを忘れ、事業モデルを強化するための総合戦略を放置している可能性が高い。競合企業が価値を見抜いて真似をすれば、こちらの優位性はいつの間にか消えていく。
〇「時間」というのは、三枝のビジネス人生の中で決定的ともいえる重要な役割を果たしてきた戦略概念。経営者を目指す人にとって「時間の戦略」は必須科目である。企業の競争性を高めるには、社内の仕事のプロセスを見直して「時間短縮」の武器を導入する必要がある。
〇事業シナジー
①事業・商品に関連性がある。
②共通の技術を使っている。
③市場・顧客が重なっている。
④販売チャネルが重なっている。
⑤既存のブランドイメージを利用できる。
⑥競争相手が同じなので戦略上の連動効果がある。
⑦勝ち戦に至る重要な競争要因が同じで、こちらはその戦いになれている。
⑧必要とされる社内組織の強みが同じなのでそれを使える。
〇リーダーの能力の切れ味は、「3枚セット」のシナリオをいかに的確かつ迅速に作るかにかかっている。《1枚目》は複雑な状況の核心に迫る「現実の直視、問題の本質、強烈な反省論」。《2枚目》は、《1枚目》で明らかにされた問題の根源を解決するための「改革シナリオ、戦略、計画、対策」。《3枚目》は、《2枚目》に基づく「アクションプラン」である。
〇改革の成否は、基本的には《1枚目》(現実直視、問題の本質、強烈な反省論)の提示で勝負が決まる。《1枚目》が甘いと、そこから導き出される《2枚目》も甘くなり、実行しても改革の効果は出にくい。
〇人は、もつれた糸のような混沌を《自分たちの手に負える大きさ》にまで分解しない限り、中身を理解することはできない。《因果律》を探し出すのは、「論理的」な作業である。その職場での「経験」がかえって邪魔をすることも多い。個々の商品や顧客、社員、行動などに迫り、「なぜ」を繰り返す。謎解きは「しつこく迫る」ことが必須。
〇戦略とは
①「戦場・敵」の動きを
②「俯瞰」し、
③自分の「強み弱み」から
④「勝負のカギ」と
⑤「選択肢」を見極め、
⑥「リスクバランス」を図りつつ、
⑦「絞りと集中」によって
⑧所定の「時間軸」内で勝ち戦を収めるための
⑨「ロジック」である。そして、
⑩その戦略「実行手順」を
⑪「長期シナリオ」として
⑫「組織内に示すもの」である。
〇ミスミ商品の商品戦略マップ
①《PPM》の「相対シェア」と「市場成長性」
②《ABC》がもたらす「商品別損益」
③顧客がミスミから受け取る商品・サービスの価値の「相対顧客メリット」
〇骨太メインストーリー
①成功する経営行動は、必ず「1→2→3枚目セット」に沿っている。
②これが「骨太メインストーリー」になる。
③「骨太メインストーリー」を得ると、
・リーダーにとっての「信念」になる
・組織にとっての「大義」になる
・従う人々にとっての「納得性」になる
・節々で立ち返る「そもそも論」になる
著者のような経営のプロが実行しても一筋縄ではいかない会社改造。ミスミの場合は、海外展開戦略や仕入先のM&Aなど、それまでのオーナー会社では実行があり得なかったような施策が実行されましたが、そこに至る経営課題の掘り下げ、社員への動機づけ・・・。すべてがリアルに描かれて、示唆の数々に圧倒されます。3部作を超える作品だと思います。