MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

難題が飛び込む男 土光敏夫(伊丹敬之)

『難題が飛び込む男 土光敏夫』(伊丹敬之)(◯)

 昭和を代表する経営者であり改革請負人である土光敏夫さんを伊丹教授が書くとなれば良書でない訳がないと思い、迷いなく買いました。で、やっぱり良書でした。石川島重工の社長、東芝の再建、行政改革に取り組まれた土光さん(”めざしの土光さん”で有名)。その人間味や思い、成し遂げたこと、成し遂げられなかったことがスパッと分析されており、よくこれだけのボリュームにまとまったなぁと思う濃厚さでした。現場の人であり、活力に溢れる土光さんが伝わってくる内容です。最後にある、伊丹教授による土光語録も味わい深いです。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯なぜ難題が飛び込んでくるのか、持ち込まれるのか

・「組織の緩みを正すトップとして実に適任」と人格や能力を再建を依頼する人が判断した。

・現場の達人であること、凛とした背中を見せることという2つの特徴が強烈であった。

1)難題の核心に自分が飛び込むキャラクター

2)再建に必要な巨大なエネルギーを持っている

3)現場が再建へと自ら動くように仕向けられる経営の工夫を考えられる

 

◯石川島重工入社時

 実際、土光は入社時すぐにタービン設計課に配属になり、辞書を片手に外国の文献を読み、試作に取り組んだ。ただ、新しいタービンに取り組んだ時、ドイツの科学雑誌のバックナンバーを山ほど取り寄せたのはいいが、これを読みこなすためには睡眠時間を切り詰める必要があった。自分のドイツ語の読解力と資料の量を比べて計算すると、1日5時間の睡眠しか取れないという計算になった。土光はそれを実行し始めた。

 その実行は次第に習い性となり、夜11時就寝、朝4時半起床という生活パターンができた。土光は結局、終生この生活パターンで行くこととなる。後年の土光の朝の起床の早さと朝の読経の時間は、ドイツ語文献との格闘が生んだ側面もありそうだ。

 

◯現場の心に寄り添う、人間タービン

 土光は、現場の心を掴んでいくのがうまかった。自然にできた。また、現場の職長とも懇意になっていくのだが、彼らの信頼を得るまでのプロセスも工夫した。

 例えば、設計通りに部品を精密に作らない現場があった。それで部品と部品との間に隙間ができる。その隙間の大きさを確認するための質問を、土光は現場へ行って職長にする。相手は最初は、よく調べもせずに、「これこれの大きさ」といい加減な答えをする。土光はそれをそのまま聞いて帰り、翌日また同じことを聞きにいく。そうすると相手は、前日に自分が言った数字を忘れているから、そこで土光は相手に自分で隙間の幅を測らせる。その測定値は前日に言った数字と当然違う。それで土光が怒るというようなことを繰り返していると、向こうは嘘を言わなくなるし、隙間を小さくしようと努力するようにもなる。また、土光に一目置くようになる。

 

◯上司に対して

 こうして現場の心に寄り添うような現場人間になっていく土光は、しかし上司に対してはかなり容赦がなかった。間違ったことは間違っていると、指摘するのである。部長に向かって「それは間違っている。こうでなくてはダメです」と大声でやりあっている土光の声を隣の部屋で聞いた人は、勇気がある人だと思ったという。また、設計図のミスをした部下にものすごい声で怒鳴っている土光さんを見た人もいる。後に土光さんは「怒号さん」と時の副総理・福田赳夫から言われるほどに、誰にでも大声ではっきりした物言いをするようになるのだが、その片鱗は若い頃にすでにあったのである。

 

◯戦争の時代

 技術者として仕事に誠心誠意に取り組む、データと信念の両方に基づいてきちんとした判断を常にする、国のために困難な技術開発にも懸命に取り組む、そうした土光の無私の姿勢と背中が、陸軍の将校たちの信頼を土光にかち取らせたのであろう。

 

◯「スイスのようになろう」という現場人間

・「日本人は組織を生かすことが下手である。技術にしても、事務にしても、また経営にしても独りよがりの勘に頼っていて、科学的な基礎を持たない。せっかく日本人が良い素質を持ちがなら、これでは本当の軌道に乗って本格的な進歩発達を成就することはできない。お互いに独りよがりはやめよう。組織にもっと弾力を持たせよう。溌剌とした科学性を会社に漲らそう。大いに科学的に頭脳を活かし技術的な腕を磨こう。そして毎日真摯な努力を続けよう」

 この言葉は、その後の土光の経営者人生を貫く、彼自身の基本思想である。

・「まず幹部がその責任を自覚し、全従業員諸君の協力なる協力を得て、あらゆる面に渡って日々具体的に工夫し、改善し、科学的に数字に基づいて事実を確認し、これを合理的に処理することであり、組織の力によって成果を上げることであります」

・その一方で土光は、現場人間であり続けた。細かいことの達人でもあった。例えば、ヒマさえあれば工場の現場を回っていた。しかも、そこで現場の異音などから機械の故障の原因をよく言い当てていた。それで、土光への現場の信用がますます大きくなる。

 

◯土光語録20選

①組織活動に揺さぶりを与えよ。このチャレンジに対するレスポンスが生じ、組織活動はダイナミックになる。

②活力=(意力×体力×速力)

③権限をフルに行動せよ。責任とは権限を全部使い切ることだ。

④トップの方針が徹底しないのは、電離層があるからだ。電離層を無くそう。

⑤幹部は極端なことを考えよ。常識的な考え方では経営は発展しない。

⑥細かい問題の合理化が行われてこそ、経営は前進する。

⑦体質改善は水を高きに上げるが如し。寸時も油断すれば水は流れ、体質は悪化する。

⑧問題を掘り起こし体当たりをせよ。摩擦をおそれるな。頭が良くても、問題や摩擦を避けていては組織は動かぬ。

⑨わかっていてもやらないのは、わかっていないのと同じだ。やっても成果が出ないのは、やらないとの同じだ。

⑩やり取りは真剣勝負だ。問題を絶えず意識している人とは短時間ですむ。叱らずば長時間をかけても結論を得ない。

⑪決断は失敗を恐れず、タイムリーになせ。決めるべき時に決めぬのは、度し難い失敗だ。

⑫意思決定は最後は勇気の問題に帰着する。

⑬手の打ち方のタイミングを考えよ。桜の蕾は冬の間に用意されている。

⑭未来に生きよう。我々の既知の分野よりも未知の分野の方がはるかに広大である。

⑮顧客を動かすのは、結局誠意である。真に誠意を持って当たれば、不信すら信頼に変えることができる。

⑯物事をとことんまで押しつめた経験のない者は、成功による自信が生まれない。能力とは「自身の高さと幅」だと言える。

⑰失敗した時、反省は必要であっても言い訳の努力は不要である。

⑱現場には、「銀座通り」もあれば裏通りもある。幹部は裏通りを歩くべきだ。

⑲火種が強ければ青草でも燃え上がる。

⑳幅の広い奥行きのある人間になれ。幹部はカミソリの刃であるよりもナタであれ。しかも切れるナタであれ。

 

 他にも逸話が多数書かれています。現場第一、思考、行動、改革、チャレンジ、、、場所が変わっても、ひたすらやり続ける姿に学ぶことは多すぎます。朝4時半起きという共通点があったのは、ちょっと嬉しかったです。

難題が飛び込む男 土光敏夫

難題が飛び込む男 土光敏夫

 

f:id:mbabooks:20171001113001j:plain