『組織は変われるか』(加藤雅則)(◯)
銀行勤務などを経て、コーチング組織CTIの立ち上げ、コーチングの普及に携わってこられた組織コンサルタントによる組織活性化に向けた取り組みがまとまった一冊です。組織開発の肝は「当事者主体」以外にありえない。「各層のコンセンサス」「経営トップから始める」「当事者主体」という組織開発の原則を切り口に、ストーリー仕立てでまとめられおり、現場の雰囲気が伝わってくる実践的な内容です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯組織開発を仕掛けるタイミング
・「平時の組織開発」:業績は好調だが組織は低調という状況で、より効果を発揮する。業績不振で経営が傾いているような状況では、組織開発の出番はない。そのときは、有事の組織開発、つまりチェンジマネジメントやリストラが求められる。
・中期経営計画は、経営トップや部門長が自分たちの組織をどうしたいのか、自らの言葉で発信し、メンバーとの対話と通じて信頼を得る好機。
・創業記念は、「私たちは何を引き継ぎ、何を捨て、何を新たに創り出すのか?」というテーマを経営陣、全社に投げかけるタイミング。
・トップ交代は、期待が自然と高まるタイミング。
◯技術的問題と適応課題
・技術的問題とは、技術や経験で解決できる問題。
・適応課題とは、技術や経験だけでは解決できず、当の本人が変化に対応できなければ前に進まない課題。何が問題なのかが明確ではない。
・失敗の最大の原因は、向き合っている問題が「適応課題」であるにもかかわらず、それを「技術的問題」として扱ってしまうこと。
◯会うべき人
・経営トップ(CEO、会長、社長)以外にありえない。事務局はトップをスポンサーに据え、トップの後ろ盾を得る必要がある。「トップから始める組織開発」が組織開発の原則。
・部長層は、成否を握る「組織開発の一丁目一番地」。日々の会社の数字を実質的に担っているのは部長層であり、強固な自負と価値観に根ざして仕事をしている。彼らが組織の司であり、現場の暗黙のルールや作法を生み出している。組織開発は「部長が買われるかどうか」にかかっている。
◯5つのステップで対話する
①現状認識をすり合わせる
・好業績の陰で、組織のどこで、どんな問題が起きているのか?
・若手社員の動向、部門別の活性度、経営への信頼度(直属の上司への信頼、部門長への信頼、経営陣への信頼)。組織開発の肝は、信頼の連鎖がどこで切れているのかという点にある。
②リスクシナリオを提示する
・このままだと、何が起こりそうか?
・多忙感がやりがいにつながるのか、あるいは疲弊感となるのか。その分岐点は「孤立感」。
・トップの経営者は、状況を先読みして、戦略論と組織論の間を大きく振り子のように振って経営する。
・ダイナミック組織:「組織の共同体化」と「共同体の組織化」の円環運動によって組織は機能する。
③組織課題の本質を見極める
・「経営への信頼」が揺らいでいないか?
・若手・中堅層は「上が変えてくれない」、部長層・役員・経営トップは「下が問題を上げてこないと判断できない」という。要するにお見合い状態。「もうやめにしよう」という声を上げようとしているが、「自分が声をあげても大丈夫かだろうか?」という信頼が揺らいでいる。この事実を経営トップ以下のマネジメント層が真摯に受け止め、信頼を育めるように自分を変えられるか、これが組織課題の核心。
④組織開発のプロジェクトを提案する
・どんな打ち手が必要なのか?
・役員層に期待するのは、本気(コミットメント)の前に、まず合意(コンセンサス)。
・組織開発の主人公(実行者)は、部長層。社長・役員・本部長は支援者。支援者と実行者を結びつけるのが事務局の役割。
⑤トップの想いを引き出す
・従業員にどんなメッセージを伝えたいか?
・トップが組織への想いを語らなければ、ほかに誰が語るのだろうか?
◯内面の循環を意識する
・「本音→本心→本気」
実際はどう感じているのかを語り出す→本当はこうしたいという自分の想いに気づく→強い感情が生まれ、想いが高まり、意識がより強固となる。
◯変革ストーリー案
①前提(現状認識・問題意識)
自社(自部門)の現状を、どう認識しているのか?
②WHY(目的・ビジョン)
だからこそ、どうありたいのか、どうなりたいのか?
③HOW(方法論・アプローチ)
実現のポイントはどこにあるのか?どこを変えるのか?
④WHAT(具体的な着手点)
まず、どこから始めるのか?
◯自己免疫システムに関する設問
①私は自部門をどう変えたいのか?
②そのために、私自身は何をするのか(行動目標)
③行動目標を阻む日常の行動とは?(阻害行動)
④③の目的は何か?(裏目的)
⑥だからこそ、自分はどう変わるのか?(私の成長課題)
◯PDCAからQPCAへ
・Question:現状に対する違和感・疑問
このままでいいのか?・・現状認識(前提・背景)
・Purpose:そもそも論に立ち還る
どうありたいのか?・・WHY(目的)
・Change:変えるべき部分が明らかになる
どこを変えたいのか?・・HOW(方法論)
・Action:どこから始めるのかという着手点
何からやるのか?(着手点)
◯適応課題の4類型
①大切にしていると言っていること(価値観)と行動が一致していない。
→その行動をとると何を失うのか?
②組織内でコミットメントが対立している。
→一部の人たちに不利益となるかもしれない決断とは?
③言いにくいことを言わない。
→言いにくいことを口にできる場とは?
④回避行動が頻発に起こる。
→「問題のすり替え」や「責任転嫁」が起きていないか?
◯適応課題に向き合う
・あなたのメッセージは、自分自身とメンバーに対して、「何を捨てよ」と言っているのか?
・そのために、「何を守り」「何を一緒に作り出そう」と言っているのか?
具体的にどうするのかについては、本書では、役員合宿の進め方として、具体的にまとめられています。戦略的アプローチと人的アプローチが両立しないとうまくいかない、どこの組織でも悩みのタネである本書のテーマ。MBA的アプローチとコーチング的アプローチがどちらも求められる内容であり、私としてもドンピシャのテーマでした。主に組織・人側のアプローチと具体的な進め方の手順という点が、特に参考になりました。