『失敗の研究』(金田信一郎)
日経新聞編集委員が大企業の不正のメカニズムや経営の失敗に切り込んだ一冊。第1部では、①理研、②マクドナルド、③代ゼミ、④ベネッセ、⑤東洋ゴム、⑥ロッテ、⑦三井不動産、⑧化血研の事例を紹介。第2部では、膨張期・巨体維持期に区分し、失敗要因を分類整理し、ここでも事例を用いながら解説しています。新聞社ならではの取材に裏付けられた事例集です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇失敗要因①「肥満化」
「あくなき膨張願望」による肥満化が、組織を歪めて、その後の凋落を招いている。しかも短時間で組織を急成長させている。収益力を伴わない肥大化や過度な供給体制。膨張装置が完成型として動き出すと急激な体重増加が始まる。
〇失敗要因②「迷宮化」
企業成長の過程で組織大我複雑に絡み合い、意思決定や情報ラインが錯綜する巨大組織。複雑であるがゆえに中身が見えにくく、意思決定が明確にならず、よって無責任体制が蔓延する。雪印の事業本部制が機能不全に陥ったのは、まるで蜘蛛の巣のように各部門が複雑に絡み合って、どこが上位で、どのように指揮命令や情報伝達が進むのか、全く見当がつかない硬直化した組織であったため。さながら伝言ゲームのように長い経路をかけて案件が伝わっていく構造。
〇失敗要因③「官僚化」
公金に深く食い込むと、そこから組織ゆるみが生じる危険を孕む。「公金を上手く使い切ることは、組織としてカネが潤うだけでなく、政官との結びつきを強め、さらなる公金の流し場所として使ってもらえる」「ムダと批判されても、政治や官僚が味方に付くため、組織防衛に繋がる」とも信じている。公金をあてにする組織は、いつしか競争心を奪われ、目的を見失い、本業が疎かになっていく。
〇失敗要因④「ムラ化」
内輪の論理。経営トップの強権発動は絶対的命令となり、従業員はタダ号令に従うばかりの集団と化す。思考停止に陥り、自律性を失った組織は、いつしか世間の常識からかけ離れていく。ムラ化した巨大組織は治療の施しようがない。経営陣の入れ替え、コンプライアンス研修、ガバナンス体制といった仕組みの入れても正常に機能しない可能性が高い。それほど、ムラの論理が支配した組織改革は難しい。
〇失敗要因⑤「独善化」
現場の状況を見ようとせず、無理な指令を繰り返す経営トップ。社員は疲弊し、会社に対する不信感を増していく。経営と現場が相互不信に陥った組織は、暗く停滞することになる。その覇気のない姿に、トップはさらに厳しく叱責する。両者の溝は埋めがたいほど深まっていく。そして会社は迷走し、破滅的事件が起きるまで止まらない。小さな企業のうちは、経営者が現場との接点を多く持っていても、組織体が巨大になった後、両社が乖離していくケースは少なくない。
〇失敗要因⑥「恐竜化~変化対応不可~」
恐竜化した企業とは、複数の敗因を抱えて、時代の変化に逆行し始めている巨大組織。複数の病症が絡んだ合併症と言える。時代の流れに逆らい、存在意義を見失っている。
「だからどうするの」ということが難しいテーマだと思います。危ない症状に気づくこと、修正することができる組織か否か。人間の体のような話ですが、こと巨大組織の話になれば、自分自身で気づくことができないことのほうが多くなり、組織的な気づきが情報として伝わって、軌道修正するための行動に繋がることが求められます。そのためにどう取り組むのか、経営者の意志とメッセージと社風づくり。巨大組織はこうしたリスクを孕んでいることを前提として、経営者自身が先頭に立って考え抜かないといけない責任領域だと思いました。