『なぜ部下とうまくいかないのか』(加藤洋平)(◯)
本書はビジネスストーリー仕立てで、ローバート・キーガンさんの成人発達理論を中心に、部下と組織を率いるリーダーとしての「器」や「人間力」と呼ばれるものがどのように成長していくのかを解説した一冊。
人は一生成長することができるという、成人発達理論を学びながら、どうすれば自分自身・部下・組織は変わっていくのかということに関して自分なりの考えを持ち、実際の組織において具体的行動を起こすことを狙いとして書かれています。
(印象の残ったところ・・本書より)
◯人はそれぞれ固有の「レンズ」を持つ
・「より俯瞰的に物事を見えるようになること」「自分をより客観的に見えるようになること」は、成人以降の発達における重要なポイント。
・「世界観の変化」について理解を深めることが発達理論を学ぶ上で大切になる。
・「人間は意味を構築することを宿命づけられた存在」(キーガン)
・「人間を人間たらしめているのは、意味を構築すること」(ウィリアム・ペリー)
◯キーガンの発達理論のポイント
・私たちの意識は、一生涯にわたって成長・発達していく
・意識の成長・発達は、一概に年齢によって決定されるわけではない。
・発達理論は意識段階を5段階(成人以降は4段階)に分類している。
(より厳密には4段階をさらに4つに分類し、16段階ある)
◯主体・客体理論
・主体というのは「認識主体」。客体というのは「認識対象」。
・意識の成長・発達が進めば進むほど、認識世界が広がって行き、これまで捉えることができなかったものが見えてくるようになる。
・私たちは、ある意識段階にいるとき、それが認識主体となっているため、その認識主体を客体化させることができない。つまり、自分がどんなレンズをかけているのかがわからない。次の意識段階に成長し初めて、過去にどんなレンズをかけていたのかを把握することができる(主体から客体への移行)。言い換えると、ある意識段階から次の意識段階へと移行していけばいくほど、客体化できる範囲が広がり、世界の捉え方が変化していく。
◯5つの発達段階
①発達段階1 具体的思考段階
・言葉を獲得した手の子供に見られる。
・具体的な事物を頭に思い浮かべることはできるが、形のない抽象的な概念を扱うことはできない。
②発達段階2 道具主義的段階(利己的段階)
・成人人口の約10%。
・極めて自分中心的な認識の枠組みを持っている。
・自分の関心事項や欲求を満たすことに焦点が当てられており、他者を道具のようにみなす。
・限界点は、他者の視点を取ることができないこと。他者がどのようなことを考え、どのような気落ちなのかを考えることが難しく、相手の立場に立って物事を考える力がまだ不十分である。
・無理に発達を促そうとすると、後々成長が止まってしまう(ピアジェ効果)。部下に対して成長することを強制するのではなく、適切な課題と支援を与えながら、彼らの成長を支えていくことが大切。
③発達段階3 他者依存段階(慣習的段階)
・成人人口の約70%
・組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定をする。
・他者(組織や社会を含む)の基準によって、自分の行動が規定されている。
・「自分の内なる声」に気づけていない。つまり、自分の意見を全く持っていないということではなく、自分自身の中に芽生えつつある自分独自の考え方や思いなどにまだ気づいていない。自分の内側にある声は、それを発見しようとしなければ、一生見つかるものではない。自分の声を探す努力なしに、段階4に到達することは不可能。
・情報を受身的に取り入れることはできるが、それらを組み合わせて、新たな意味を構築する力が脆弱である。権威に屈しやすく、既存のものを鵜呑みにしてしまいがちであるため、既存のものを超えた新しいものを生み出すことが難しい。
④発達段階4 自己主導段階
・成人人口の約20%
・自分なりの価値観や意思決定基準を設けることができ、自律的に行動できるようになる。自ら行動基準を構築することができる。
・自己成長に強い関心があったり、自分の意見を明確に主張したりするという特徴を持つ。
・意識の焦点が自分の欲求や願望ではなく、自分の価値観に当てられている。段階4の振る舞いは、単なる欲求に従った利己的なものというようりも、心の内側にあるより高度な規範に基づいている。
・所属する集団や組織に浸透しているベストプラクティスを客観的に眺めることができるという、ある種の「健全な批判精神」を兼ね備えている。
・限界点は、自分の価値体系に縛られること。自分独自の価値体系を構築しているという特性を持つが、これは裏を返せば、自分の価値体系に盲目的になりかねないということも意味している。その結果、自分の価値観と異なる考えや意見を受け入れることができないかもしれないという限界点を持つ。
・自分に焦点が向かえば向かうほど、ある意味、段階4の特性を強化してしまうことになり、段階5への成長が難しくなってしまう。
⑤発達段階5 自己変容・相互発達段階
・成人人口の1%未満。
・自分の価値観や意見にとらわれることなく、多様な価値観・意見などを汲み取りながら的確に意思決定ができる。
・自らの成長に強い関心を示すことはなく、他社の成長に意識のベクトルが向かう。
・他者が成長することによって、自らも成長するという認識(相互発達)がある。
◯「含んで超える」成長
・私たちは以前の意識段階の限界を乗り越えて生きながらも、完全に以前の段階を捨て去るわけではなく、一部の特性を受け継ぎながら新しい段階に到達していく。
・発達範囲(私たちの意識段階は置かれている状況に応じて変化し、その変動幅のことを指すもの)と合わせて、私たちの成長・発達プロセスは、「含んで超える」という原則に従っているために、私たちは以前の段階の特性を発揮することがある。
◯「垂直的な成長」と「水平的な成長」
・「垂直的な成長」:意識の器の拡大、認識の枠組みの変化。
・「水平的な成長」:知識やスキルの獲得のようなイメージ。
・「水平的な成長」はどんなコーチからコーチングを受けようとも起こりうる可能性がある。ただし、人間としての器の拡張や認識の枠組みを変えるような「垂直的な成長」は、意識段階の低いコーチからのコーチンでは起こらない。ビジネスであれば、上司の意識段階が高くないと、部下の「垂直的な成長」を支援することができない。
成長発達理論にとても興味が湧きました。前の段階を含みながら成長していく地という「含んで超える」考え方。「水平的な成長」は誰からでも学べるが、「垂直的な成長」は自分より意識段階が高い人から出ないと学べないということ。まさに自分がその段階をあげて、「垂直的な成長」も「水平的な成長」もどちらも支援できる人になりたいと思っていたところなので、とてもフィットする一冊でした。
組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学
- 作者: 加藤洋平
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2016/04/15
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