MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

発達障害(岩波明)

発達障害』(岩波明

 本書は、成人期の発達障害の代表的な疾患であるアスペルガー症候群などの「自閉症スペクトラム障害ASD)」、及び「注意欠如多動性障害(ADHD)」を中心に扱っています。発達障害の概念とその歴史を振り返り、発達障害を持つ当事者の実生活における諸問題を取り上げ、その解決方法が検討されています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

発達障害に含まれるもの

・一般に「発達障害」とは、アスペルガー症候群を中心とする自閉症スペクトラム障害ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)などを漠然と指していることが多い。注意すべきは、「発達障害」という病名は総称であり、個別の疾患ではない。

ASDの主要な症状は、「コミュニケーション、対人関係の持続的な欠陥」と「限定され反復的な行動、興味、活動」である。

ADHDは、「多動・衝動性」と「不注意」を主な症状とする疾患。

 

ASDの症状

 A項目の対人的な相互関係の障害に加え、B項目の常同的・反復的な行動パターンを認めることが必須。

A)以下のうち少なくとも2つにより示される対人的相互反応の質的な障害

①目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互反応を調節する多彩な非言語的行動の使用の著明な障害。

②発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗

③楽しみ、興味、達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの欠如

④対人的または情緒的相互性の欠如

B)行動、興味及び活動の、限定的、反復的、常同的な様式で、以下の少なくとも1つによって明らかになる。

①その強度または対象において異常なほど、常同的で限定された型の1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること

②特定の、機能的でない習慣や儀式に頑なにこだわるのが明らかである

③常同的で反復的な衒奇(げんき)的運動

C)その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている。

D)臨床的に著しい言語の遅れがない

E)認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動、及び小児期における

 

◯他者への関心が薄いASD

ASDの症状として特徴的なものが対人関係の障害。これは統合失調症や対人恐怖症などでみられる「自閉」とは様子が異なる。

・他の疾患における「自閉」は、不安や恐怖しょうが原因であることが多い。だが、ASDの人は他者の存在に対する関心が薄いため、他者からの孤立を招くことになる。

ASDの当事者は、自分の思ったことや本当のことを言いたいという考えを押さえることができないことが多い。

・第2の特徴として、言語や非言語を用いたコミュニケーションの障害がみられる。興味を持った対象に過度に没頭しやすく、その没頭の仕方が幾分奇妙であることが多い。自分の興味を他人に押し付けてうんざりさせることも起きやすい。

・相手の表情や仕草などの非言語的なメッセージを感じ取れないことがしばしばある。

 

◯軽視されてきた疾患ADHD

ADHDASDと並ぶ主要な発達障害。しかもASDと比べてADHDの有病率は高い。小児期においては、総人口の5〜10%程度に及ぶ報告もある。この数字は、ASDの10倍。

・「不注意、集中力の障害」は、成人になっても持続し、特に就労してからは、ケアレスミスの頻発、仕事上のパフォーマンスの低下といった否定的な要因と関連してくるケースが多い。

 

ADHDの診断基準

A1)以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6か月以上にわたって持続している。

a. 細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。

b.注意を持続することが困難。

c.上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える。

d.指示に従えず、宿題などの課題が果たせない。

e.課題や活動を整理することができない

f.精神的努力の持続が必要な課題を嫌う。

g.課題や活動に必要なものを忘れがちである。

h.外部からの刺激で注意散漫となりやすい

i.日々の活動を忘れがちである。

A2)以下の多動性/衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6か月以上にわたって持続している。

a.着席中に手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする。

b.着席が期待されている場面で離席する。

c.不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする。

d.静かに遊んだり余暇を過ごすことができない。

e.衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしていることができない。

f.しゃべりすぎる。

g.質問が終わる前にうっかり答えを始める。

h.順番待ちが苦手である。

i.他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする。

B)不注意または多動性/衝動性の症状のうちいくつかが、12歳になる前から存在していた。

C)不注意または多動性/衝動性の症状のうちいくつかが、2つ以上の状況において存在する。

D)これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせている。またはその質を低下させているという明確な証拠がある。

E)その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神病ではうまく説明されない。

 

ADHDの症状

①不注意

・注意集中ができない。注意の持続に問題がある。話しかけられても聞いていないように見える。外部からの刺激により注意がそらされる。

・忘れ物が目立つようになる。

・迷子になる例が多い。

・店の中で落ち着かずに、あちこち動き回っていることも多い。

・学習面ではケアレスミスもよく見られ、テストでは些細な誤りをしやすい。

・好きな事柄には、徹夜してでも取り組むケースも多い。

・同じ間違いを繰り返すことが多い。

②多動と衝動性

・手足をもじもじさせ、キョロキョロする。授業中の席から離れる。あちこち走り回る。じっとしていられない。

・常に何かしゃべっていなければ落ち着かない。

・黙ってはいられずに一方的に話し続けたりする。

・手足を落ち着かなく動かす。

・緊張感や内面の落ち着きのなさが高まる。

・爆発的な行動をとったり、イライラしやすい。

・比較的小さな引き金で、怒りを爆発させる。

 

 本書では、このあと、さらにそれぞれの特徴が深掘りされ、事例の紹介やデイケアのメニューが示されています。それにしても小児期には5〜10%とはとても高い数字だなと思いました。こういった分野にも少しずつ知見を深めていければと考えているところです。

発達障害 (文春新書)

発達障害 (文春新書)

 

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