『神様の女房』(高橋誠之助)
企業家リーダーシップDay3の参考図書として読みました。
タイトルの「神様」は、松下幸之助さん。本書は、松下幸之助の奥さんである、井植むめのさんの生涯を綴った内容です。著者が松下家の執事を20年務めた方だけに、夫婦二人三脚の様子や夢に向かって突っ走る夫を支える妻という構図がよく表現されています。松下幸之助さんの書籍はたくさんありますが、違う観点で学ぶのも、またおもしろいなと思わせてくれる一冊です。
(印象に残ったエピソード‥本書より)
〇母親から仕込まれた針仕事。努力家に加えて、負けず嫌いの性格もあり、学校でも1~2位を争う腕前となった。
⇒のちに、幸之助が独立してしばらく収入が乏しかったときに家計を支え、幸之助の夢の実現を陰で助けた(このことを幸之助が知るのは晩年のこと)。
〇奉公から学んだ従業員の気持ち
商家で花嫁修業をしたむめは、ここで奉公する側の立場や気持ち、何をしてもらえば嬉しいのかということを徹底的に学んだ。
⇒のちに、従業員を住み込ませ食事や身の回りの世話をして仕事に専念させたことや、従業員の満足度を高めるために工場で昼食を用意するという工夫に繋がる。
〇奉公で学んだ生き方論
主人から教えられた教訓。「人生は誰かからもらうもんやない。自分で切り拓くもんや。人からもろたもんは、すぐになくなってしまう。自分で手に入れたもんは、簡単には失わん。その心構えを持っときや」。
⇒のちに、むめのの結婚観につながっていく。幸之助は、資産もなく、家族も多くが早死にし、自身も病気になりやすい体質だったが、敢えて、そのほうが自分の人生を自分で切り開けると決意して結婚した。幸之助の人物・人柄・能力はまったくの考慮外であった。
〇幸之助の「おしるこ屋」事件?
幸之助が勤め先で昇進したが仕事が面白くなくなり、好きなことをやりたい!という方向性が、大好物の「おしるこ」屋を開業しようという発想になったときのむめのの対応。「はっきり言わせてもらいます。商売するのはかまいません。でも、私はおしるこ屋は嫌です。私は田舎もんやから、口に入れるもんを商いにするのは、水商売やと思うてます。そんな商売は、私には向きません」
⇒幸之助にぴしゃりと物が言える強さ。そして、おしるこ屋で独立したら、後年の松下電器産業は無かったという話。
〇ソケット屋としての成功の端緒
製品研究のため、幸之助の指示で、空き地に落ちている同業社のソケットのかけらを拾いに通っていたところ、同業者に見つかった話。不審がった同業者が幸之助の家へ訪ねてきたところ、むめのと幸之助は真摯に正直に訳を話した。同業者から予想外の一言。「そういうことでしたか。ここは、わてが応援させてもらいまひょ。ほんまはね、わては若い人が好きなんや。この国を担うのは、あんさんたちなんやから。ずるい商売をしようとしていたら企業秘密を守るところやけど、あんさんらは違うようや。これも何かの縁や」と協力を引き出してしまった。
⇒真摯で正直であるべしという親の教えが生きており、のちの経営の考え方にも生かされてている。正直・真摯エピソードがもう一つ。
商売が苦しくなり、家賃が支払えなくなった時の話。正直に大家に支払いが遅れる旨、頭を下げにいったところ、大家から「あんたのことほど、毎月きっちりと家賃を届けてくれたところは他のどこにもなかった。加えて、こうしてわざわざ、家賃がおくれるということを、ことわりに来てくれたんかいな。そういう借主に家を貸せていることが私は嬉しい。心配せんでいい。お金が入ったときに払ってくれたらよろしいから」と声を掛けてもらった。
⇒きちんとした暮らしをするということは大事。人はしっかりと見ているということ。それが困ったときにありがたいことに繋がっていくということを経験。のちの商売にも生かされる。
松下幸之助さんとむめのさん。創業50周年式典で、むめのさんを檀上に上げ、深々と頭を下げてお礼を言った幸之助さんの思いには、感謝に繋がるたくさんのエピソードがあり、今回、その実話に少しでも触れることで、また松下幸之助さんからの学びが深まりました。