『指導者の条件』(松下幸之助)(◯)
経営の神様が昭和50年に書かれた本書。指導者に求められる条件が、100余の項目に分け、1項目2ページでまとめられています。とても読みやすく、エッセンスも詰まっている良書です。松下幸之助さんは多数著書を出版されていますが、今の時代であっても色あせることがないのは、それが本質だからですね。
本書は、頭で理解するだけでなく、実践し、実践した内容などについて意見交換や議論することでまた学びが深まっていく、そんな一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯一視同仁
・指導者は敵をも愛する豊かな心を持ちたい。
・感情的な対立から相手に対する憎しみといったものにエスカレートし、それが争いをより深刻、悲惨なものにしている姿も少なからず見受けられる。こうしたことでは、お互いの不幸を増すばかり。
◯命を懸ける
・指導者には命をかけて事にあたるほどの心境が必要。
・結局、大事をなす者の一番根本の心がけはこのことではないだろうか。命を懸けるというほどの思いがあって、はじめていかなる困難にも対処していく力が湧いてくる。
◯祈る思い
・指導者には何ものかに祈るというほどの真剣な思いが必要。
・人間が本当に真剣に何かに取り組み、ぜひともこれを成功させたい、成功させねばならぬと思う時、そこに自ずと何ものかに祈るというような気持ちが湧き起こってくるのではないだろうか。
◯訴える
・誰しも大事に出会えば、ともすれば動揺し、判断に迷う。けれども、そういう時に指導者から適切な呼びかけがなされれば、皆の気持ちも一つにまとまり、難局を乗り越えていくこともできる。
・どういう事態にあっても動揺しないような一つの信念を持っていなくてはならない。
◯落ち着き
・指導者は危機にあっても冷静でなければならない。
・指導者の態度に人は敏感なもの。それはすぐ全員に伝わり、全体の士気を低下させることになってしまう。
◯過当競争を排す
・結局、お互いの利害というものは大きくはみな共通しているのであって、自分を愛するごとく他を愛し、自国を愛するがごとく他国を愛するところに、真の幸せも、平和も生まれてくる。
◯諫言を聞く
・指導者はいいことよりも悪いことを喜んで聞くようにしたい。
・いいことを聞けば喜ぶが、悪いことを聞けば不愉快になり、機嫌も悪くなる。だから、いきおいみなもいい話しか持ってこなくなり、真実がわからなくなってしまいがちなのが世の常である。
◯感謝する
・指導者は何事に対しても深い感謝報恩の念を持たねばならない。
・感謝の気持ちが薄ければ、何事によらず不平不満が起こり、自らの心も暗くし、他をも傷つけることになる。それに対して、感謝報恩の念の強い人には、すべてが喜びとなり、心も明るく、また他とも調和し、共存共栄といった姿を生み出しやすい。
◯決意を強める
・指導者は一度決心してもそれを自ら絶えず強めなくてはならない。
・一度志を立て、決意することによって、非常に偉大なことを成し遂げられるのも人間であるが、その志、決心をなかなか貫き通せない弱さを合わせて持つのもこれまた人間である。
◯謙虚である
・指導者は地位が高くなればなるほど謙虚でありたい。
・そういう態度でいれば、自ずと人の意見にも耳を傾けるようになって、衆知が集まってくるということにもなる。
◯私心を捨てる
・指導者は私の心を去ってものを考えることが大事。
・自分の利害とか感情にとらわれてしまうと、判断を誤ることもあるし、また力強い信念も湧いてこない。こうした自分というものを捨て去って、何が正しいかを考え、なすべきことをなしていくところに、力強い信念なり勇気が湧き起こってくると言える。
◯小事を大切に
・指導者は小事をおろそかにしてはならない。
・小さな失敗や過ちは、概ね本人の不注意なり、気の緩みから起こってくるし、本人もそれに気づかない場合が多い。そして、千丈の堤もありの穴から崩れるのたとえの通り、そうした小さな失敗や過ちの中に、将来に対する大きな禍根が潜んでいることもないとは言えない。
◯人事を尽くす
・指導者は失敗は本来許されないという厳しい考えを持ちたい。
・正しい事業観を持ち、正しいやり方で経営を行い、正しい努力をしていれば、世の中の好不況などにかかわらず、終始一貫適正な利益を上げつつ発展していくものだと思う。それがうまくいかない、損をするというのは、事業観に誤りがあるか、経営の手法が当を得ていないか、なすべき努力を怠っているか、そのいずれかである場合がほとんど。
実践から出てくる言葉の数々には、理屈ではない説得力のようなものを感じます。やっている人だけがわかる世界観。机の上では本当の良さは感じられず、現場での悩みやストレスやそれを乗り越えた経験などがあればあるほど、納得感があって引き込まれます。指導者は何も経営者に限らず、誰かを牽引する人であれば、だれもが当てはまることではないかと思います。