『経営思考の「補助線」』(御立尚資)
リスクマネジメントと企業経営の授業をでお世話になった、ボストンコンサルティンググループ日本代表である御立先生のこれまでに執筆された記事を抜粋した経営エッセイ集です。
グローバリゼーション、イノベーション、市場メカニズムといったズバリ経営をテーマとしたものから、麻雀、天保の改革、津田梅子、島田紳助といったビジネスとは離れたジャンルまで。経営とは異なるジャンルが経営を考える思考力、発想力を育むことにつながる。タイトルにある「補助線」とはまさに視野を広げ、多くの切り口を持つことで難問に立ち向かう実力を付ける一助となる着眼のこと。著者の知見の広さを感じる一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇補助線
一見無関係な事柄に目を移してみると、とても解がなさそうな難問に思いがけず答えが、しかもユニークな答えが出てくる。
〇カクテル
おもしろいもので、もともとの材料の持つ風味を生かしながらも、1+1が3にも4にもなるような新しい美味が生まれてくる。
〇Disease(病気)
AIDSやSARSがに代表されるDiseaseが与える影響について、欧米企業の多くは非情にセンシティブで、必ずメガトレンドの中に含めて考えているが、たいていの日本企業箱の視点が欠落している。グローバルなビジネスを長期に考えていくためには避けて通れない。
〇ネットの正解にあるリアル
理論値ではなく、実際の人間の行動結果をデータとして収集し、それをもとに効果の高い施策を考え実行していく。自店より競合先の購買行動データ、購買データより買わなかったデータはさらに重要。
市場メカニズムという言葉は、完全市場という極めて特殊なケースを前提としている。だが実際には、効率的に働かなかったり、うまく機能しない市場メカニズムも存在する。複数の「ゲーム」という観点で、企業と競争相手、企業とユーザー、企業と取引先、企業内部の市場、これらをじっくり眺めるようになって、考えつく戦略オプションの数が随分増えた。
〇人的資本利益率(Return On Human Capital)
設備投資とそのための資金確保は、これからも経営の重要事項であり続ける。しかし、競争優位を築くにはそれだけでは足りない。知的財産を生み、競合との差別化を成し遂げていく「優秀な人材」こそが希少資源になる。人的資本利益率といった指標を何らかの形で創り上げ、それを経営のものさしとしていくことが必要。
〇『代表的日本人』(内村鑑三)
西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人を取り上げ海外向けに出版された本書。この本を読むと、①訴えたい相手(欧米諸国の国民)を特定し、②彼らの視点、価値観(キリスト教に基づく人物や文化の評価)を理解し、③その土俵に立つことで訴えたいメッセージ(日本は古来尊敬すべき人物・文化を有する国である)が「伝わる」角度を上げるという点に感心させられる。
学生時代は数学が苦手でしたが、面積算定問題の解説の図面に「補助線」が書かれたものを見ると、「なるほど!」と思考が動き出した記憶が蘇りました。経営も同じ。考える広さ・深さは膨大ですが、何か手がかりになる自分なりの「補助線」が持てれば、そこを突破口として思考が動き始めるのだと思います。そんな補助線を得るためには、学びの分野が偏らないこと、付き合う仲間が偏らないこと、、、自分の範囲を限定しないように意識して行動しないといけないなと改めて思いました。