様々な企業で「女性活躍推進」というキーワードで働き方改革が進んできていますが、本書は、子育てをする女性への配慮が行き過ぎる流れを改善する取り組みが紹介されています。
職場の不平等感をなくすために、2014年から育児勤務者も遅番、休日勤務を検討するよう要請し、2015年に「資生堂ショック」としてメディアで批判されました。子育てしながら働き続けるのに職場の配慮は欠かせませんが、配慮が行き過ぎると女性のキャリア形成を逆に阻害し、活躍の場を奪ってしまう。子育て社員に僅かでも不利益をもたらす可能性のある施策を企業が打ち出すと「子育て中の社員や、その子供がかわいそう」といった同情論が先行し、企業は矢面に立たされる。「女性活躍推進のゴールは、女性に優しい社会をつくることではなく、女性が能力ややる気に応じて誰からも制限されずに思い切り活躍できる社会が目指すゴールであるはず」とまえがきにあるように、問題の本質に焦点を当て社会問題に一石を投じた事例です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇社内制度
・カンガルースタッフ制度:育児時間を取得するBC(ビューティー・コンサルタント)の代替要員を店舗に派遣する仕組み。
・育児時間制度:子供が小学校3年生終了まで1日の勤務時間を最大2時間短縮できる。
〇独身者に遅番集中
育児時間利用者が少ないうちは大規模な職場に配置転換するなど、BC間の負担が偏らないように調整できた。だが利用者が増えると、勤務シフトは組みづらくなる。子供がいるBCを早番に優先して入れる結果、独身者などほかのBCに遅番や休日勤務が集中する傾向が強まった。代替要員では補えない仕事が現場にはあり、同僚の負担軽減にも限界があった。
〇問題の本質
「育児時間=早番」の固定化。利用者の急増はあったものの、育児時間利用者は早番に入るという暗黙のルールが当事者や管理職、同僚らにいつの間にか醸成され、運用が硬直的になっていた。
〇管理職のコミュニケーション不足
・管理職は、マタハラを避けようと、過剰反応している。リスク回避のためには、何も聞かないほうが安全。結果的に当事者の申請をそのまま受け取りがちになっていた。
・子育て中のBCは、制度利用があたかも権利であるかのうように振る舞い、管理職はトラブルを嫌って深入りを避ける。
〇改善策の基本戦略
・「育児時間=早番」の固定観念から脱し、遅番・休日シフトにも入ってもらう。
・子育て中だからと無条件に一律な配慮をせず、個々の状況を見極めてジャストフィットの配慮をする。
〇勤務シフトの均等割りは段階的に導入
①ステップ1(2014年3月まで)
早番に入り、遅番・休日勤務は免除
②ステップ2(2014年4月からの標準)
個別事情に応じて遅番・休日勤務にも入る
③ステップ3
早番、遅番、休日勤務の回数は、フルタイム勤務者と同等
④ステップ4
育児時間を使わずにフルタイム勤務者と同等の勤務
〇マミートラック(ワーキングマザー向けの負担の軽いランニングコース)
子育てを理由に通常とは異なるキャリアコースを歩むこと。仕事の軽減と引き換えに昇進・昇格のチャンスが減る。「頑張ってもどうせ評価してくれない」と仕事へのやる気がそがれ、それを見た上司や職場の同僚は「やっぱり子供のいる女性に仕事は任せられない」と女性社員への評価を一段と下げる。そしてそれが女性社員のやる気をさらに削いでしまう。
〇女性管理職を育てる工夫(副社長談)
「経営戦略として取り組む以上、目標数値が無ければ具体的な対策を立てようもない。反対の理由はいろいろあるが、本音ベースでいえば、男性は力不足の女性に自分が就くべきポストを奪われることを嫌がり、女性は自分が管理職に上がったときに『数値目標のお蔭でしょ。能力もないくせに』と思われたくなかった。いずれの懸念も昇進・昇格段階で女性を優遇したときに起こる問題。だから登用で女性を絶対に優遇せずに誰を管理職に上げるかの判断は実力本位で行うと繰り返し説明して納得してもらった。実際に誰一人女性管理職は優遇していない。『登用で優遇はしないが、女性の育成は急ぐ』と社内に説明し、徹底した」
社会風潮から言えば、タブー、聖域、でも心の中では疑問を抱くテーマにズバッと切り込んだ興味深い取組み内容でした。改革の具体的な進め方も詳述されており、これからの働き方改革の参考になると思います。