『幸福論』(著:ラッセル、訳:安藤貞雄)(◯)<2回目>
世界三大幸福論のひとつ(あと2つは、アラン、ヒルティの幸福論)。
「100分de名著」で本書を読んで改めて良書だと感じたので、岩波文庫版を取り出してきて、2度目を読みました。「不幸の原因」と「幸福をもたらすもの」の2部構成で、それぞれ各章の内容に共感でき、これは一度パワポにまとめないといけない候補本レベルでした。コーチングで「幸せ」をテーマにすることが最近続いたこともあって、しばらく「幸せシリーズ」で選書してみたいと思っています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯不幸の原因(第一部)
①バイロン風の不幸
②競争
③退屈と興奮
④疲れ
⑤ねたみ
⑥罪の意識
⑦被害妄想
⑧世評に対するおびえ
◯幸福をもたらすもの
①熱意
②愛情
③家族
④仕事
⑤私心のない興味
⑥努力とあきらめ
◯何が人を不幸にするのか
①罪びと
罪の意識に取り憑かれた人。人は絶えず我とわが身に非難を浴びせている。自分はかくあるべきという理想像を抱いている。その理想像は、あるがままの自分の姿と絶えず衝突している。
②ナルシスト
常習的な罪意識の裏返し。自分自身を賛美し、人からも賛美されたいと願う習性を本質とする。度が過ぎた場合、由々しい弊害となる。
③誇大妄想狂
魅力的であるよりも権力を持つことを望み、愛されるよりも恐れられることを求める点で、ナルシストと異なる。多くの狂人と、歴史上の偉人の大部分が属している。
◯バイロン風の不幸
・賢い人々は、昔の時代に熱心に信奉されていたものの正体をことごとく見抜いてしまって、もはや、なんの生きがいもなくなったことに気づいている。こう言う考え方は、世界史を通じて多くの時代にあった考え方であるし、今日でも一般的な考え方である。
◯競争
・この災いの原因は、幸福の主な源泉として競争して勝つことを強調しすぎる点にある。その一点を超えると、幸福をいやます(いよいよ多くなる)とは思えない。成功は幸福の一つの要素でしかないので、成功を得るために他の要素が全て犠牲にされたとすれば、あまりにも高い代価を支払ったことになる。
・この災いの根源は、実業界一般に広まっている人生観にある。
◯退屈と興奮
・退屈は、有史時代を通じて大きな原動力の一つであったし、とりわけ現代においてそうである。退屈は、特徴的に人間的な感情であるように思われる。
・退屈の本質的要素の一つは、現在の状況と、いやでも想像しないではいられない他のもっと快適な状況とを対比することにある。自分の能力を十二分に発揮するわけにいかないことも、退屈の本質的要素の一つである。
・一言で言えば、退屈の反対は快楽ではなく、興奮である。興奮に対する欲望は、人間、ことに男性においてすこぶる根深い。
・興奮の問題は分量。少なすぎれば病的な渇望を生むかもしれないし、多すぎれば疲労を生む。退屈に耐える力をある程度持っていることは、幸福な生活にとって不可欠。
◯疲れ
・純粋に肉体的な疲れは、過度でなければ、どちらかと言えば幸福の原因になりがち。そういう疲れは、熟睡と旺盛な食欲をもたらし、休日に持ちうる快楽に熱意を添える。
・きちんとした精神は、ある事柄を四六時中、不十分に考えるのではなくて、考えるべきときに考えるのである。困難な、あるいは厄介な結論を出さなければならないときには、すべてのデータが集まり次第、その問題をよくよく考え抜いた上、決断を下すが良い。決断した以上は、何か新しい事実が出てきた場合を除いて、修正してはならない。優柔不断くらい心身を疲れさせるものはないし、これほど不毛なものはない。
・悩みの原因になっている事柄がいかにつまらないかを悟ることで、随分たくさんの心配事を減らすことができる。
・現代生活では、重要な疲れの種類は常に情緒的なもの。情緒的な疲れの厄介な点は、休息を妨げるということ。
◯ねたみ
・人間の情念の中で最も普遍的で根深いものの一つ。総じて普通の人間性の特徴の中で、ねたみが最も不幸なものである。ねたみ深い人は、他人に災いを与えたいと思い、罰を受けずにそうできるときには、必ずそうするだけでなく、ねたみによって、我と我が身を不幸にしている。自分の持っているものから喜びを引き出す代わりに、他人が持っているものから苦しみを引き出している。
・ねたみは何も答えられない。幸いにも、人間性にはこれを生み合わせる情念がある。賛美の念だ。
◯罪の意識
・大人の生活の不幸の根底にある心理的な原因の中で最も重要なものの一つ。
・罪の意識は、よい人生の源泉になるどころか、まったくその逆。罪の意識は、人を不幸にし、劣等感を抱かせる。自分が不幸なので、他人に過大な要求をしがちであり、ために、人間関係において幸福をエンジョイすることができなくなる。
◯被害妄想
・この病気は、理解によってのみ治療できる。したがって、その理解は所期の目的を達するためには、患者に伝えられなければならない。
・私たちは、他の人間と違って欠点などない、と友人たちが思ってくれるものと期待している。私たちに欠点があることをやむを得ず認めた場合、私たちは、この明白な事実をあまりにも深刻に考えすぎる。被害妄想はいつも、おのれの美点をあまりに誇大視するところに原因がある。
◯世評に対するおびえ
・概して、飢えを避け、投獄されないために必要な限りで世論を尊重しなければならないが、この一線を越えて」世論に耳を傾けるのは、自ら進んで不必要な暴力に屈することであり、あらゆる形で幸福を邪魔されることになる。
・世評日本刀で無関心であることは、一つの力であり、同時に幸福の源泉でもある。
◯熱意
・幸福な人たちの最も一般的で、他と区別される特徴。
・人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、ますます運命に左右されることが少なくなる。
◯愛情
・熱意の欠如の主な原因の一つは、自分は愛されていないという感情。反対に、愛されているという感情は、他の何者にも増して熱意を促進する。
・大多数の人々は、自分が愛されていないと感じると、臆病な絶望の中に沈み込んでしまい、ただ、ときどき、ねたみや悪意をちょっぴり示すことで鬱憤を晴らすようになる。そういう人々の生活は、概して、極端に自己中心的になり、愛情のないことが彼らに不幸感を与える。
◯家族
・家族が、原理的には与えられるはずの根本的な満足を与えられなくなっていることが、現在、一般的に見出される不満の最も根深い原因の一つ。
◯仕事
・量が過多でない限り、どんなに退屈な仕事でさえ、大帝の人々にとっては、無為なほどには苦痛ではない。仕事には単なる退屈しのぎから最も深い喜びに至るまで、仕事の性質と働き手の能力に応じてあらゆる度合いが認められる。仕事は何よりもまず、退屈の予防策として望ましいもの。
・仕事をしていれば、休日になったとき、それがずっと楽しいものになる。
・目的の持続性ということは、結局、幸福の最も本質的な成分の一つであるが、たいていの人々の場合、これは主として仕事を通して得られる。
・家事は、ほかの種類の仕事が男性や専門職に就いている女性にもたらすような大きな満足はもたらさない。
・仕事をおもしろくする要素は、①技術を行使すること、②建設
◯私心のない興味
・人間、疲れれば疲れるほど、外侮への興味も薄れて行く。そして、外部への興味が薄れるにつれて、そうした興味から得られる息抜きがなくなり、ますます疲れることになる。
・私心のない興味は、釣り合いの感覚を保つのに役立つ。
◯努力とあきらめ
・中庸を守ることが必要である一つの点は、努力とあきらめのバランスに関して。
・あきらめには2種類ある。①絶望に根ざしている、②不屈の希望に根ざしている。
濃厚な内容でした。端折ってみても、かなりのまとめ量になります。全体に「こうすれば幸福になる」という前向きだけを考えるのではなく、「不幸に陥ってしまう思考スパイラルがあり、そこに気づけば自ずと、幸せスパイラルに入る」という感覚でしょうか。着眼、発想、行動、これらがネガティブにつまづくのを防ぐような人生において大切なことが多数書かれています。人生でも大事にしたい一冊になりそうです。