MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人材マネジメント論(高橋俊介)

『人材マネジメント論』(高橋俊介)(〇)<3回目>

 先日、友人から人事戦略に関する相談を受けたこともあり、「経営戦略における人事戦略」という全体感が把握しやすい本書が気になり、再々読しました。人事戦略が先頭を走るのではなく、事業ビジョン、顧客への価値提供ビジョンを考え、そこから人材ブランディングへ、そして、①組織マネジメント、②人材フローマネジメント、③報酬マネジメントへと、経営的視点から人事戦略に落とし込んでいく感覚がつかめる良書だと改めて感じました。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇人材マネジメントの基本は戦略性

①まず事業ビジョンがあって、その事業ビジョンはどの提供価値によって実現するのかを決める

②そのために必要なのは、どのような意欲と能力を持ち、どういう働き方ができる人なのかという人材像を定義する

③それらの人たちに目標を与え、理解を促し、こういう行動をしてほしいという具体的な指針を与える

 

〇事業ビジョンと人材マネジメント

・事業ビジョン:①誰が顧客か、②どのような価値を提供するのか、③どのように儲けるのか

・事業の性格がそれぞれ異なるのであれば、事業ごとに差別化をはかりながら自社の優位性を確立していく必要があるので、コーポレートの人事がそのために求められるそれぞれの事業の事業人材をすべて考え、確保育成やマネジメントの詩杭をつくるのは現実的ではない。

・事業の優位性を支えるコアの事業人材の人材像を定義し、その確保育成、マネジメントの考え方を発想するのは、ラインマネジャーや事業責任者の役割。

 

〇サービスの本質(青海慶友病院の事例)

①「サービスは退色する」

 サービスの質は必ず下がっていく。現状に安住することなく、先手先手という具合に受け手の期待をいい意味で裏切るサービスを自律的に創出し続けられなければならない。スタッフが自覚するまで組織の中で繰り返し伝え続けること。一部の人だけが何かを考え、それだけをやっていれば達成できるというものではなく、5点満点中4点~5点のアイデアが組織の中から随時生まれてくる人材マネジメントこそが必須。

②「100‐1=0」

 100人のうち99人がどんなに努力をして一生懸命やったとしても、たった一人の不心得者が出るだけで、すべてが台無しになってしまう。だから「100‐1=99」ではなく、「100‐1=0」。

 

〇人材マネジメントの3分野

①組織マネジメント

②人材フローマネジメント

③報酬マネジメント

 

〇組織マネジメント

・「Why⇒What⇒How⇒Do⇒Check」で仕事を回すことが多いが、そのサイクルの回し方は、組織マネジメントによって大きく変わる。

・3つの軸

①ピラミッド組織か、自律組織か

②画一性を前提とした組織化、多様性を前提とした組織か

③公式の組織コミュニケーションによる組織マネジメントか、見えない人的ネットワークによる相互作用か

・コミュニケーションとマネジメントのスタイル

①都度命令、②マニュアル、③職務記述書、④数値目標やノルマ、⑤目標管理による合理的マネジメント

⇒ただし、「キャリア開発や人材育成」と「目標管理」は因果関係が複雑で、管理可能性・予見性が低く、目標管理とは極めて相性が悪い。人の成長は偶然の要素による部分があまりにも多すぎる。

⇒「指標ばかりでなく先行指標」、「定量目標ばかりだけでなく定性目標」、「個人指標ばかりでなく組織指標」というバランスがポイント

 

〇人材フローマネジメント

・企業ビジョンや事業ビジョンを中長期的に実現するのに必要な人材を、どのように採用、配置、育成、代謝するかを扱うもの(人材の入口から出口までの人材の流れ)。

・個人の仕事の成果=期待成果イメージ×能力×コミットメント

⇒自分はどんな成果を出すことを求められているのか、どんな成果を出したいかを正確に理解している(期待成果イメージ)、その成果を出す能力がある(能力)、成果を出さなければならないというコミットメントがある(コミット)。

 

〇報酬マネジメント

経営資源をどのように配分すれば、組織マネジメントや人材フローマネジメント、あるいは、個人の行動において、もっとも高い費用対効果を実現できるか。

 

 本書では、上記の骨格について、事例を使いながら具体例を示して解説されています。「人材マネジメント」については、制度設計時の、①経営戦略との整合性(総論)、②個別制度設計のパターン(セオリー・各論)を押さえることは、スタートライン。むしろ大事なのはそこから先。

 設計した制度を、①社員が納得感を持てるように伝えられるか、②動き始めてから生じる問題を一つ一つ解決していくこと(個人の問題か、制度の問題か)、③外部環境が変わっていく中で制度を柔軟に変化できるか(その際の社員の納得感の問題が再登場)。いずれにしても、経営者の思いと社員の思い、処遇という現実問題がぶつかる領域なので、作って終わりはなく、経営の他のテーマと同じく、企業が存続する限り、永遠に考え続けないといけなりテーマだと思います。

人材マネジメント論―儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント (BEST SOLUTION)

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