『現代の経営(上)』(P.F.ドラッカー)<4回目>(◯)
私の中で数少ない殿堂入り本に入っている本書。1954年に発行された本書は、マネジメントの世界の基本が組織的・体系的にまとめられています。『マネジメント』(1973年発行)がエグゼクティブの体系的入門書だけでなく大学の教科書としても書かれているほど深掘りされたものに対し、本書の方は、一つひとつの章は短く、より基礎的(といっても相当深い)な内容になっています。
下巻と合わせると序論を含めた6部構成となっており、①マネジメントの本質、②事業のマネジメント、③経営管理者のマネジメント(ここまでが上巻)、④マネジメントの組織構造、⑤人と組織のマネジメント、⑥経営管理者であることの意味、について書かれています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯マネジメントとは
・マネジメントとは組織体に特有の機関。機関は機能によってのみ説明され、明らかにされる。
・マネジメントは、あらゆる意思決定と行動において、経済的な成果を第一義とする。企業のマネジメントは、経済的な成果をあげることによってのみ、その存在と権威が正当化される。
・マネジメントの機能
①事業をマネジメントすること
②経営管理者をマネジメントすること
③人と仕事をマネジメントすること
◯事業とは何か
・経済はマネジメントの活動に制約を課す。同時に機会を与える。しかし、経済はそれ自身、事業が何であり、何をするかを決定しない。「マネジメントは事業を市場に適合させるだけである」という説ほど馬鹿げたものはない。マネジメントは、市場を見つけ出すとともに、自らの行動によって市場を生み出す。
・「利益を得るための組織」も的外れ。
◯企業の目的
・企業の目的は企業の外にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち「顧客の創造」である。
・企業の2つの基本的な機能
マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門家されるべき活動ではなく、全事業にかかわる活動である。まさにマーケティングは事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。
イノベーションとは、より優れ、より経済的な財やサービスを創造すること。企業にとって、より大きなものに成長することは必ずしも必要ではない。しかし、常により優れたものに成長する必要はある。
◯生産性
・生産性とは、最小の努力で最大の成果を得るための生産要素間のバランスのこと。
◯利益の機能
・利益の最大化が企業活動の動機であるか否かは定かではない。これに対し、未来のリスクを賄うための利益、事業の存続を可能とし、富を生み出す資源の能力を維持するための最低限どの利益をあげることは、企業にとっての絶対条件である。
・この「必要最小限の利益」が事業の行動と意思決定を規定する。
・事業のマネジメント
①事業のマネジメントは起業家的でなければならない
②環境適応的ではなく、創造的な仕事でなければならない
③業績によって評価される意識的な活動でなければならない
◯我々の事業は何か
・「我々の事業は何か」という問いに対する答えは、顧客や市場の立場から事業を見ることによってのみ得られる。
・マネジメントは、消費者の心理を憶測するのではなく、消費者自身から率直な答えを得るよう意識して努力しなければならない。「我々の事業は何か」という問いを発し、正しく答えることこそ、トップマネジメントの第一の責務である。
・我々の事業は何かを知るための第一歩は、「顧客は誰か」という問いを発すること。
「現実の顧客は誰か」
「潜在的な顧客は誰か」
「顧客はどこにいるか」
「顧客はいかに買うか」
「顧客にいかに到達するか」
・「我々の事業は何になるか」に答えるために明らかにすべき4つのこと
①市場の潜在的な可能性と趨勢
②経済の発展、流行や好みの変化、競争の変動による市場の変化
③顧客の欲求を変化させ、新しい欲求を創造し、古い欲求を消滅させるイノベーションの可能性
④今日のサービスや製品によって満足させられていない顧客の欲求
・「我々は正しい事業にいるか」「我々の事業を変えるべきか」を問う必要がある。
◯事業の目標
・事業の目標は、次の5つのことを可能にするものでなければならない。
①なすべきことを明らかにする
②なすべきことをなしたか否かを明らかにする
③いかになすべきかを明らかにする
④諸々の意思決定の妥当性を明らかにする
⑤活動の改善の方法を明らかにする
・事業の存続と繁栄に、直接かつ重大な影響を与えるすべての領域において、目標が必要である。目標を設定すべき領域は8つある。
③生産性
④資金と資源
⑤利益
⑥マネジメントと能力
⑦人的資源
⑧社会的責任
◯いかにして目標を設定するか
・目標設定の難しさは、「いかなる目標が必要か」を決定することにあるのではない。「いかに目標を設定すべきか」を決定することにある。
・この決定を実りあるものにする方法は一つしかない。8つの領域それぞれにおいて、測定すべきものを決定し、その測定の尺度とすべきものを決定することである。何を測定するかを決定することによって、目標が目に見える具体的なものになる。
◯どれだけの利益が必要か
・利益の3つの役割
①利益は事業活動の有効性と健全性を測定する。
②利益は陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする。
③利益は、直接的には社内留保による自己金融の道を開き、間接的には事業に適した形での外部資金の導入誘因となる。
・必要な利益率は簡単にわかる。それは、必要とする種類の資金調達のための資本市場における金利に等しい。
・マネジメント能力、人的資源、社会的責任の領域は人を扱う。それらの領域で必要とされるものは定性的な基準である。データではなく判断である。測定ではなく評価である。
◯目標の期間設定
・目先すなわち2〜3年先と、その先の将来すなわち5年以上先との間のバランスを考える必要がある。このバランスは管理可能な支出についての予算によって実現される。近い将来と遠い将来のバランスに影響を及ぼす意思決定は、すべて管理可能な支出に決定によって行わなければならない。
・管理可能な支出については長期的な視点が必要。あらゆる活動が短期間だけ強化しても成果は上がらない。しかも支出の急激な減額は、長年築いてきたものを1日で壊す。
◯目標間のバランス
・目標をバランスさせる仕事ほど有能なマネジメントと無能なマネジメントを分けるものはない。しかし、そのための方程式はない。
・目標は、明日成果をあげるために今日とるべき行動についての意思決定を容易にする。目標は常に現在の手段と将来の成果、近い将来の成果と遠い将来の成果のバランスを決定する。
◯経営管理者のマネジメント
・まず必要とされることは、一人ひとりの経営管理者の目を企業全体の目標に向けさせることである。彼らの意思と努力をそれらの目標の実現に向けさせることである。
・経営管理者のマネジメントに必要なこと
①目標と自己管理によるマネジメント
②経営管理者の仕事を適切に組織すること
③組織に正しい文化を生み出すこと
④CEOであり取締役会
⑤明日の経営管理者の育成
⑥経営管理者の健全なる組織構造
◯自己管理による目標管理
・一流の腕は確かに重視しなければならないが、それは常に全体のニーズとの関連においてでなければならない。
・キャンペーンによるマネジメントを行なっている組織では、キャンペーンに従って本来の仕事の手を抜くか、キャンペーンをサボって本来の仕事をするか、いずれかしかない。
・マネジメントたる者は、自らが率いている部門の目標は自ら設定しなければならない。上司はそのようにして設定された目標を承認する権限を持つ。だが、目標の設定はあくまでも部門長の責任であり、しかも最も重要な責任である。
・今日必要とされているものは、一人ひとりの人の強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち、一人一人の目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。これらのことを可能にする唯一のものが、自己管理による目標管理である。自己管理による目標管理だけが、全体の利益を一人ひとりの目標にすることができる。
◯経営管理者は何をなすべきか
・経営管理者の仕事
①常に実体がなければならない
②可能な限り広い範囲のものでなければならない
③上司によってではなく、仕事の目標によって方向付けされなければならない
・経営管理者たる者は、事業全体の成果を指し示し、「ここのところは私の貢献だ」と言えなければならない。
・チームは5〜6人を限度とすべきであり、一般的にいって3〜4人が最もよく機能すると言える。
◯組織の文化
・組織の文化を要約する2つの言葉
①「おのれよりも優れたものに働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」(アンドリュー・カーネギー)
②「重要なことは、できないことではなく、できることである」(身体障がい者雇用促進キャンペーンのスローガン)
・「凡人をして非凡なことをなさしめる」(べヴァリッジ卿)ことが組織の目的。
⇨組織の良否は、人の強みを引き出して能力以上の力を発揮させ、並みの人に優れた仕事ができるようにすることができるかにかかっている。
・組織の文化とは、仲良くやっていくことではない。大切なことは、仲の良さではなく、仕事ぶりの良さである。そもそも、仕事から得られる満足や、仕事上の関係から得られる調和に基づかない人間関係は、うまくいっているように見えても貧しい関係であって、組織の文化を腐らせる。
・正しい組織の文化を確立するには、行動規範として次の5つが求められる。
①優れた仕事を求めること。劣った仕事や平凡な仕事を求めないこと。
②仕事それ自体が働きがいのあるものであること。昇進のための階段ではないこと。
③昇進は合理的かつ公正であること。
④個人にかかわる重要な決定については、それを行う者の権限を明記した基準が存在すること。上訴の道があること。
⑤人事においては、真摯さを絶対の条件とすること。かつそれはすでに身につけているべきものであって、後日身につければ良いというものではないことを明確にすること。
◯マネジメントの適性
・本気であることを示す決定打は、人事において、断固、人格的な真摯さを評価することである。なぜならば、リーダーシップが発揮されるのは、人格においてだからである。真摯さは習得できない。真摯さはごまかしがきかない。
・マネジメントがリーダーを作ることはできない。マネジメントにできることは、リーダーの資質を発現しやすくするか、発現しにくくするか、いずれかの環境を作ることだけである。
◯ボトルネックはボトルのトップにある
・いかなる組織といえども、そのトップマネジメントを超えて優れたものとはなり得ない。
まとめ自体もずいぶん長くなってしまった本書。まだまだ上巻ですから。約260ページでこれだけの深い内容が書かれているって、やはりすごいです。