『新移民時代』(西日本新聞社編)(◯)
2017年初刊、2020年増補版が刊行された本書。外国人材の実態に迫ったルポで、とても興味深い内容です。外国人、現地の送り出し先、日本の受け入れ先、政府といった関係者の中で成り立つ留学や就労ですが、「出稼ぎ留学生」「偽装難民」問題や技能実習生、玉石混交の留学ビジネスの実態など、数多くの取材により現実が明らかにされています。外国人材が増えつつある中、社会を理解するのに役立つ一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第一章:出稼ぎ留学生
・地方都市では労働力として外国人材が欠かせない。宅配の仕分け作業、コンビニ弁当や惣菜の工場での夜間勤務など、日本人の採用が難しい仕事や時間帯を埋めているのが外国人留学生のアルバイト。アルバイトの掛け持ちや「週28時間以内」という制限超えている例、学費が払えなくなり不法滞在となってしまっている例もみられる。
・九州では、人口が減少する地方で日本語学校の設立が相次いでいて、自治体が誘致するケースもある。
・勉強より就労が目的とも言える「出稼ぎ留学生」が増えた一因は、現地ブローカーの存在と日本の入管の人手不足がある。一例として、海外現地の留学仲介業者事務所の日本語ができるスタッフが日本の入管からの電話に対し、留学希望者になりすまして電話応答するケースが書かれている。こうして、日本語能力のない若者が入管のチェックをすり抜けているようである。
◯第二章、第三章:留学ビジネス
・ネパールでは、2008年から日本政府が取り組む「留学生30万人計画」が追い風となり、日本語学校が急増。国内語学学校の登録は560校、未登録は1500校(いずれも取材当時)に上り、日本語学校が最も多い。
・欧米と日本では留学に必要な成績に差があり、「米国は80点、オーストラリアは70点、日本は40点で大丈夫」という現地日本語学校の方のコメントが紹介されている。
・現地の学校には、日本への留学ビザが取れると、提携する日本側の学校から1人あたり10万円の紹介料が入る。この仕組みが留学ビジネスの加熱を後押ししている。学校は玉石混合。日本語を話せず、日本に行ったこともない人が社長や先生になっている学校も多い。
・偽造書類問題の例として、日本の入国管理当局が求める残高は最低150万ルピー(約150万円)。公務員の月給が3万円のネパールでは大金。留学生はこれと別に留学実費で100万ルピー以上がかかり、大半は借金。その留学生が150万ルピーの預金残高を持つのは現実的ではない。この残高証明は、残高証明書の発行機関が、残高がなくても手数料次第で「本物」を作ってくれるというケースが紹介されていた。
などなど、世の中はこんな風になっているのかと驚かされる内容が多数書かれています。しかし、ネガティブなことばかりではなく、外国人材が優秀な働き手として、さまざまな企業で活躍しているのも事実。留学生を卒業後正社員として採用したいというオファーや、在留資格の関係で帰国してしまうことを残念がる経営者の方のコメントなども多数あり、特に日本人の若者の採用が難しくなっている地方経済の担い手としては、貴重な人材であることが感じ取れます。今後、労働人口が減少していく日本の経済を支える働き手としての外国人材を理解するうえで、現実の社会の手触り感がある良書でした。