MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

老子(蜂屋邦夫訳注)

老子』(蜂屋邦夫訳注)

 生年は不詳ですが紀元前6世紀ごろ(春秋戦国時代)など諸説ある中国の哲学者である老子。熾烈な戦国時代を生き抜く処世の知恵であり、一種の統治理論であるが、同時に、世の中と人間についての深い洞察力によって、人生の教科書ともいうべき普遍性を持っている。本書は『老子老子道徳経)』の日本語訳で、訳文、訓読文、原文、注がまとめられています。岩波新書ワイド版は書店では滅多に見かけませんが、ネットで購入できます。文庫版に比べて文字が大きく、くっきりしていて、かなり読みやすいです。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯第1章より(道の道と可すべきは)

 これが道ですと示せるような道は、恒常の道ではない。これが名ですと示せるような名は、恒常の名ではない。天地が生成され始めるときには、まだ名は無く、万物があらわれてきて名が定立された。

 そこで、いつでも欲がない立場に立てば道の微妙で奥深いありさまが見てとれ、いつでも欲がある立場に立てば万物が活動する結果のさまざまな現象が見えるだけ。

 

◯第8章より(上善は水の如し)

 最上の善なるあり方は水のようなものだ。水はあらゆるものに恵みを与えながら、争うことがなく、誰もがみな厭だと思う低い所に落ち着く。だから道に近いのだ。

 身の置き所は低いところがよく、心の持ち方は静かで深いのがよく、人との付き合い方は思いやりを持つのがよく、言葉は信(まこと)であるのがよく、政治はよく治るのがよく、ものごとは成りゆきに任せるのがよく、行動は時宜にかなっているのが良い。そもそも争わないから、だからとがめられることもない。

 

◯第9章より(持して之を盈(み)たすは)

 盈(み)ちたりた状態を失わぬように保ち続けるのは、やめておいた方がいい。富貴で驕慢ならば、みずから災難を招く。仕事を成し遂げたら身を退ける、それが天の道というもの。

 

◯第36章より(之を縮めんと欲せば)

 縮めてやろうとするならば、必ずしばらく拡張してやれ。弱めてやろうとするならば、必ずしばらく強めてやれ。廃してやろうとするならば、必ずしばらく挙げてやれ。奪ってやろうとするならば、必ずしばらく予(あた)えてやれ。

 これを奥深い明知という。柔弱なるものは剛強なるものに勝つ。

 

◯第38章より(上徳は徳とせず)

 高い徳を身につけた人は徳を意識していない。そういうわけで徳がある。低い徳を身につけた人は徳を失うまいとしている。そういうわけで徳がない。

 高い徳を身につけた人は世の中に働きかけるようなことはせず、しかも何の打算もない。低い徳を身につけた人は世の中に働きかけるようなことはしないが、しかし何か打算がある。

 高い仁を身につけた人は世の中に働きかけるが、しかし何の打算もない。高い義を身につけた人は世の中に働きかけ、しかも何か打算がある。

 高い礼を身につけた人は世の中に働きかけ、しかも相手が応えないと腕まくりして引っ張り込む。

 そこで無為自然の道が失われると徳化をかかげる世の中となり、徳化の世の中が失われると仁愛を掲げる世の中となり、社会正義の世の中が失われると礼を掲げる世の中となった。

 そもそも礼というものは、まごころの薄くなったもので、混乱の始まりである。先を見通す知識というものは、道にとってのあだ花であって、愚昧の始まりである。

 そういうわけで、りっぱな男子は、道に即して純朴な所に身を置き、華やかなあだ花には身を置かない。だから、あちらの礼や、先を見通す知識を棄てて、こちらの道を取るのだ。

 

◯第48章より(学を為す者は日に益し)

 学問を修める者は日々にいろいろな知識が増えていくが、道を修める者は日々にいろいろな欲望が減っていく。欲望を減らし、さらに減らして、何事もなさないところまで行き着く。何事も為さないでいて、しかも全てのことを為している。

 天下を統治するには、いつでも何事も為さないようにする。なにか事を構えるのは、天下を統治するには不十分である。

 

◯第63章より(為す無きを為し)

 なにも為さないということを為し、なにも事がないということを事とし、なにも味がないということを味とする。

 小さいものを大きいものとして取り扱い、少ないものを多いものとして扱う。怨みには徳でもって報いる。難しいことは、それが易しいうちに手がけ、大きいことは、それが小さいうちに処理する。世の中の難しいことは、それが易しいうちに手がけ、大きいことは、それが小さいうちに処理する。世の中の難しい物事は必ず易しいことから起こり、世の中の大きな物事は必ず些細なことから起こるのだ。そういうわけで聖人は、いつも大きな物事は行わない。だから大きな物事が成し遂げられるのだ。

 いったい、安うけあいすればきっと信用が少なくなるし、易しいと見くびることが多ければきっと難しいことが多くなる。そういうわけで聖人さえ、物事を難しいこととして対処する。だから、いつも難しいことにならないのだ。

 

 全81章から少し抜粋してみましたが、どれも示唆が深く、考えさせられます。なにも考えずに行動すると通り過ぎてしまうところ、結構その反対側に真理があったりする。逆説的な発想に気づくには、①日頃から考えておく、②立ち止まって考える、③振り返って考える、ということができると思います。東洋哲学を学ぶ魅力はこの点を書物を通じて先人の知恵が得られること。時間をかけて掘り下げていきたい分野です。

老子 (ワイド版岩波文庫)

老子 (ワイド版岩波文庫)

 

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