『人前で話す・教える技術』(寺沢俊哉)(◯)(前編)
日本生産性本部のコンサルタントで、ライブ講師®︎として講師界でも著名な寺沢さんの著書です。研修講師としても数万人の研修を担当され、リピート率8割以上。コンサルタントとしても28年間のご経験がある著者。ロジカルからも感性からもアプローチが多様で、本当によく考え抜かれた研修を実践されています。本書は、研修コンテンツを作る講師側の意図が実例とともに詳しく解説されており、著者が2015年に開講されたライブ講師®︎実践会(様々な領域で教えることに携わる方が学び合うコミュニティ)で披露されている講師ノウハウとともに、52のテーマに整理された内容の濃い一冊です。人前で教える機会がある方には特にお勧めです。コラムも秀逸です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯公式1 「あついかみの対話」
・あわせる対話:講師と参加者の関係を築く対話
・つかむ対話:興味・関心を引きつける対話
・いかす対話:興味関心を本来、伝えたいテーマに結びつける対話
・かさねる対話:テーマをジブンゴトにする対話
・みつける対話:アイデアや提案を発見する対話
・のせる対話:承認して動機づける対話
■前半(あつい対話)
・「なるほど、◯◯(今日のテーマ)は大切なんだ」という「必要性」を感じてもらうのが前半戦のゴール。テーマに、スポットライトを当てる。
・「必要性を感じたときに来る営業マンは天使だが、感じていないときに来る営業マンはハエである」
・先にテーマの必要性を伝えてから、「それでは、あなたの場合は」と可能性に移っていく、「必要性から可能性へ」この順番が鉄板。
■後半(かみの対話)
・スポットライトをテーマから参加者に移動させるタイミングが重要。「評論家を生み出してしまう研修や会議」はここがうまくいっていない。
・本人の状況に深く共感しながら、「みつける対話」で解決策や目指すゴールを一緒に発見していく。最後に「のせる対話」で実行を支援するという流れを作る。
◯あわせる対話
・ご当地ネタ
・お天気ネタ
・今日のネタ(365日、必ず何かの記念日)
・今日の研修テーマネタ
・「手挙げ」で参加者の状態に関心を持つ
・どれかを中心人物にする(事前にノリの良さそうな人をチェック)
・ドレスコードを合わせる
・対象年齢に合わせたBGMを流す
・活動や学習の結果を部屋に掲示する
・事前に集めた「研修ニーズ」を読み上げる
・一人ひとりに合わせたサービス(テキストやウェルカムボードに名前を入れる)
◯つかむ対話
・つかみで一番大切なのは、こちらに興味を向けさせること
・「つかみ」を伏線として、この後、どう回収するかを考えておく
・講師の研修ジャンルとは関係なく、とにかく目につくもの、普段から興味を引かれてしまうものを集めておく。「これ、ネタとして使えないかな?」と考えることが大事。
・クイズ
・サイレンやジングル(音で引き付ける)
・マジック
・パントマイム
・ストーリーテリング(エピソードを語る)
・驚きのデータ(固めの研修でも使える)
・感動的な写真、絵画やデザイン
・彫刻や道具など実際の現物
・錯覚(トリックアートなど)
・お客様からの感謝の手紙を披露する
・歴史秘話を語る
・体を使った実習、ダンスやインプロ(即興演劇)
・簡単な研修ゲーム
・特別ゲスト(サプライズ)
・香りの演出、光の演出
◯いかす対話
・「つかむ対話」+「いかす対話」の複合技に慣れてきたら、ギャップのある組み合わせにチャレンジする。
cf)①「数字のクイズ」を出して「財務研修」の導入につなげる
②「現代アート」を鑑賞して「財務研修」の導入につなげる
→①よりも②のほうが意外性がある。
◯かさねる対話
・研修の進行上、ジブンゴトにしてもらう方法として最も強力なこと。それは参加者自身にそのテーマを語ってもらうこと。
・講師自身の体験を語る際のポイントは、必ずしもドラマティックな体験ではなく、どこにでもある日常体験がいい。参加者が萎縮せず、「なんだ、この程度の話でいいんだ」と思ってくれるから。参加者が「自分の体験を気軽に話してもらえる環境を用意する」こと。
・講師自身の心構えが大切。「一人ひとりの人生経験は、学ぶ上で最高の素材である。その中には必ず今回のテーマに関係する貴重な話が眠っている。だから貴重な宝物として敬意を持って接しよう」と信じて進行すること。
・似たような体験を思い出してもらう
・反対の体験を思い出してもらう
・現象ではなく、実感に重ね合せる
◯みつける対話
・発見する喜びを提供することがポイント。
・何かを「教える」という行為は、まさに「発見」。参加者一人ひとりが、既に持っている経験やノウハウにテーマを「かさねる」ことで、その人の可能性を引き出し、自ら「発見」してもらうから。
・講師が答えを言うのではなく、あくまで参加者自身に発見を促す。そのためには、講師は「質問」で進行していく。
◯のせる対話
・「できるから、さあ、やってみよう」と元気付けて本人を「のせる」。
・自身の提案を全員の前で発表してもらうこと(ステージに「のせる」)。
・本人を「のせる」ときは、相手の行為のおかげで、自分ができたことや感じたことを話すと良い。これは「I(私)メッセージ」と呼ばれている技術ですが、その本質は「敬意」にある。
◯ワンシート企画書「たこさあかす」
・タイトルにこだわろう(内容の一貫性)
・根拠を明確にしよう(開催の趣旨)
・参加者の状態(ビフォー)
・参加者の状態(アフター)
・環境を用意しよう(空間)
・ストーリーライン(時間)
◯(た)タイトルの工夫
・タイトルがないと、話があらぬ方向に進んでいったり、単なる雑談になってしまう危険がある。
・すでに社内で決まったタイトルがある場合は、副題で補う。
・初めに考えるのは研修のタイトルだが、最後まで考え続けるのもタイトル。
◯(こ)根拠を明確にする
・主催者として、なぜ今、実施したいのか
・研修が成功したとしたら、どんな経営上のメリットが得られるのか
・他の研修やプロジェクトの関係性、相乗効果をどう考えるか
・参加者には何を期待しているのか、どんな貢献をして欲しいのか
・集合研修以外の方法でこの趣旨を実現することはできないのか
◯(さ)参加者を知る(ビフォー)
・参加人数、参加者の属性
・参加者自身の忙しさ
・知識、技術レベル
・やる気レベル
・関係性のレベル
◯(あ)アフターの姿を共有する
・何がわかって、何ができていたら研修は成功だろうか
・どんな気持ちになって、何を約束していたら、研修は成功だろうか
・お互いのことをどう感じていたら、研修は成功だろうか
・将来にも役立つ要素や本人以外の誰かの役に立つことも加えることでベネフィットは強化される。
・「さっそく、学んだことを試してみたい」という気持ちになってもらいたい
◯(か)環境に心を配る
・事前案内のポイントは、①招待状を送るつもりで用意する、②ジブンゴトに導く、③知識とやる気を引き出す。
・理想のテキストは、①予習・復習に使える書籍があって、②当日はそれと連動したスライド資料があって、③書き込みをする場面ではワークシートが用意されている。
◯(す)ストーリーラインを描く
①分野別に分けて区切る
②「やさしいもの」から「難しいもの」へ並べる
③理論を学んでから実験や実技を行う。あるいはその逆。
④時間の流れに沿って並べる
⑤全体像を示してから部分を説明する
⑥論理型
⑦感情型
ここまでで52テーマ中まだ20。かなり端折りながら描いても相当長くなりました。これはかなり濃厚。後半戦を別途書きたいくらいです。自分が研修や勉強会をやるときには、ぜひ読み返したいと感じる一冊でした。