『星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書』(編集・構成:小野田鶴)(◯)
ファミリービジネス経営の実践者であり、抜群の存在感がある星野佳路さんが入山章栄教授とともにファミリービジネスの経営の切り口を議論したあと、10名のファミリービジネス経営者と対談されるという内容。
ファミリービジネスの教科書とすべく書かれており、経営学的視点とリアル経営的視点が相まって、とても興味深い内容となっています。今後、ファミリービジネス本が増えていくとすると、本書がきっかけになるのではないかと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ビジネスモデルの自動転換システム
・ファミリー企業の業績は、概して非ファミリー企業よりいい。
・ビジネスモデルなるものは30年に1度ぐらいは検証し、必要に応じて見直すべきかもしれない。その仕組みが最初からビルトインされているのが、ファミリービジネスの重要な仕組み。好むと好まざるとに関わらず、経営トップがある日突然30歳も若返る。
◯ファミリービジネスの4つのフレームワーク
①スリーサークル
・マネジメント(経営陣)、オーナー(株主)、ファミリー(創業者)の3つの円。
・重なり合うところは、緊張が走り、対立が生じる。
・ファミリー企業の経営者は、自分の仕事は非ファミリー企業の経営者の3倍大変だと認識しなければならない。
・スリーサークルから浮かび上がる3種類の課題に対応して、3種類の計画を立てることを勧める。
1)戦略計画
オーナーと経営陣の間で対立が生じやすい経営戦略について、改めて合意する。
2)ファミリーの人材開発計画
経営陣とファミリーの対立の芽になる、ファミリーのキャリアや教育について合意を形成し、計画を立てる。
3)資産計画
ファミリーとオーナーの間で緊張関係が生まれる株式や不動産の相続などについて、計画を立てる。
②4L
・4つのL
1)ビジネスを学ぶ(Learn Buisiness)
2)自分たちのファミリービジネスを学ぶ(Learn our Family Buisiness)
3)率いることを学ぶ(Learn to Lead)
4)退くことを学ぶ(Learn to Let Go)
・L2が最も重要で、L4が最も難しい。親世代が経営トップであり続けること以外に、自分の新しい役割と生きがいを見出せるかどうか。
・「440」体制から「330」体制へ。まず「週4日、年40週」の出勤に減らし、それに成功したら「週3日、年30日」に減らそうと心に決めて宣言する。
③スチュワードシップとエージェンシー理論
・エージェンシー理論とは、経営者とは代理人たるエージェントであり、プリンシパル(委託者)である株主・オーナーの委託を受けて、その利益のために行動する。
・スチュワードシップとは、直訳すると「受託責任」。世界中の成功しているファミリービジネスの共通点は、リーダーたちが自分自身をスチュワードとみなしていることにある。「ファミリービジネスとは駅伝である」。そこにおけるスチュワードシップとは、タスキをつなぐ駅伝走者の心構え。最も重要なのは、受け取ったタスキを次の奏者に渡すこと。
④ビッグテントと4R
・ファミリービジネスを大きなテント捉え、準備と意思、能力があれば多彩な形で入れる。ファミリービジネスの創業家には多彩なメンバーがいる。事業に関わらない人にも、それぞれの立場で貢献を求め、受け入れることが組織の永続、発展につながる。
1)ガバナンスに役割を見出す
2)起業家精神を発揮する
3)事前活動で貢献する
4)経営陣に加わる
・4R
1)役割(Rate):株主、役員、経営幹部・社員、ファミリー
2)要件(Requirament):ファミリーメンバー、スキルと専門性、資格・経験、血縁と伴侶
3)責任(Responsibility):役員の任命、受託者、職務の明細書で定める、積極的なオーナーシップ
4)報酬(Remuneration):配当、市場相場の役員報酬、市場相場の給料、ファミリー憲章
・報酬は必ずしも金銭的なものでなくてもいい。貢献した実感があり、相手から感謝の念を伝えられるだけで十分と感じる場合もある。
事業承継が国家的課題になっているだけあって、まさに今押さえておきたい一冊です。いいところもそうでないところも、非ファミリービジネスとの違いを押さえ、経営の勘所をつかんでおくこと。株式の承継のように長期的に考えることもあり、人間関係も濃厚なだけに、外部の方も交えながら考えていくことも必要な領域なのかもと思いながら読みました。