『異業種に学ぶビジネスモデル』(山田英夫)(〇)
大塚さん、杉戸さんのお薦め本であり、これも良書でした!
以前、同様のコンセプトである『異業種競争戦略』(内田和成)を読みましたが(これも良かった)、同書を超える内容の濃さでした。
内容は、異業種であってもビジネスモデルの着眼点が似ているケースがあることに着目し、そこから導き出される経営のエッセンスは何かということを掘り下げて書かれています。事例から帰納法的にビジネスモデルのエッセンスを導き出しているところが興味深く、実践的な感じがします。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇スター・マイカ(金融業界→不動産業界)
裁定取引(市場間の価格差を利用して利益をあげる取引)と似たような現象が不動産業界で起きていることにゴールドマンサックス出身の社長が気づいた。賃貸中のマンションは空室マンションより平均25%安い。マンションを買い取った後、賃借人が退去すれば25%の利ザヤが取れる。保有するマンションが多くなれば、「大数の法則」がはたらき、、毎年一定数の退去者を予測できる。
〇楽天バスサービス(ホテル業界→バス業界)
「バスは動くホテルの部屋である」という発想。①どう集客するか、②どのような品ぞろえをするか、③お客様が自分にあった商品をどう選んで予約するかが、業界の成功要因。ホテル業界で用いられている、レベニュー・マネジメント(需要予測に合わせて価格を変動させる)により、単価をコントロール。インターネット販売により需要予測がしやすく、ホテルと異なり需要がオーバーした際は、他社からバスを借りてきて台数を増やすことも可能。
〇日本ゴア(インテル方式)
ゴアテックス(防風・防水・透湿素材)で有名なゴア社。生産財企業なのに最終消費者にブランドが浸透している点でインテルと似ている。当初高級スキーウェアに採用されていたが、「これだけ良い素材であれば、消費者にも訴求したほうが良い」という発想から、消費者へ直接訴求。「上級製品に採用されているならいい素材だろう」から、「ゴアテックスを採用しているなら高品質だろう」へ変化した。
法人営業の激戦から脱出し個人営業へ重点をシフト。しかも、従来の銀行が積極的に手を付けなかったセグメント(働く女性、中小企業従事者、転職の多いSE・プログラマー、外資系社員、スポーツ選手、投資用マンション購入者、外国人など)に着目。①他行が貸したくない人にも貸す、②他行にはない商品を開発して貸すことに取り組む。「銀行からコンシェルジュへ」がビジョン。より個人に近づき、生涯をとおして金融の相談に乗れる存在を目指した。
〇コマツ(富士ゼロックスのマネージド・プリント・サービス→コマツのKOMTRAX)
GPSとセンサーにより、建機の位置情報の取得とモニタ・制御が可能なシステム。位置情報による盗難防止、遠隔操作によるエンジン停止機能で中国での代金回収を促進などから始まり、まるで「壊れる前日」に来てくれるような予防保全に発展させ、ユーザーのトータルコストダウンに貢献した。これは、富士ゼロックスがプリンタ複合機を通信回線で管理しサービスマンが駆けつけなくても症状を把握したことに酷似している。
などなど、事例が多数されています。
〇ビジネスモデルを見る7つの視点
①顧客の再定義
意思決定者、購買者、使用者が異なる場合。誰が顧客か。
②顧客価値の再定義(主にメーカー):サービス・ドミナント・ロジック
すべての企業は顧客にサービスを提供している。モノの受け渡しは付属。
③顧客価値の再定義(主にサービス業):マイナスの差別化
サービスの中から必要なものだけに絞る
④顧客の経済性
トータルコスト、固定費の変動費化
⑤バリューチェーンのバンドリング/アンバンドリング
川上・川下との統合/分離
⑥経営資源の持ち方(ヒト・モノ)
⑦定番の収益モデル
ホテル・航空会社なら「レベニュー・マネジメント」
ICTなら「ネットワーク効果」「フリーミアム」「ロングテール」
そのほか、「ジレッドモデル」など・・・
本書は、興味が湧いてくる事例が豊富に、しかもコンパクトに掲載されている点が優れています。様々な業種の事例の共通点を考えることは、とっつきやすい業種という視点で考えるのではなく、ビジネスの特徴という切り口で商売の本質を考える訓練になり、とても多くの気づきが得られました。