『交渉プロフェッショナル』(島田久仁彦)(〇)
あすか会議2015に登壇された、国際ネゴシエーターの島田さん。23歳にして国連紛争調停官を務め、2005~2010年には環境省国際調整官として主席交渉官や議題別議長を歴任。コソボ軍事紛争調停からCOP10名古屋議定書採択など数々の国際交渉を手がけられた超一流のネゴシエーターです。
営業などのビジネス交渉本が多い中、国際交渉の舞台裏を綴った内容は、なかなか知ることができない本物の交渉の世界を知る良い機会になりました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇シビアな交渉の現場で求められる能力
広範な知識と洞察力、各国の動向を探る取材力、相手のガードを解くコミュニケーション力、時間内に議事をまとめるマネジメント力、バランス感覚、決断力、胆力・・
〇交渉は勝つことを目標にしてはいけない
さまざまな合意のなかでも、結局長続きするのは、当事者同士が納得している合意だけ。どんな交渉でも、表面の勝ちばかりを追っていると、その場はよくても必ずしっぺ返しがくる。大事なことは、「一緒に結果を導き出した」という達成感を共有すること。「調停」は「交渉」の究極のあり方。
〇師匠からのアドバイス
「ごめんなさい」「お願いします」と人に頭を下げるのはタダ。それでその場をしのげたり、得たい情報をがられるのなら、これほどいいことはない。だから、無駄なプライドは捨てること。
自分でミスをしたと分かっているのに謝れないでいたら、感情的にもつれて自体はますます悪化する。だが、すぐに自分の非を認めて誠実に謝罪すれば起こっている相手の期限も直り、交渉をスムーズに再開することができる。
〇相手と同じ目線
「こいつとは話ができる」と思ってもらわないといけない。「自分は相手と同じ目線に立っている」ということを態度を持って示す。
→一緒に地べたに座り、ランチを食べ、彼らの話にひたすら耳を傾け、どんな思いで任務に就いているのか、家族や愛する人たちへの思いを互いに語ること
〇交渉・調停スタイル
ひたすら相手の話を聞くこと
〇言語習得法
現地の飲み屋やバーに行くこと。そこで、一般の人々が交わす会話に耳を澄まして、どういう言葉でしゃべっているのかをじっくり聞き取ること。
→良い意味のスラング、悪い意味のスラングを知っていれば、相手の感情の動きがより正確に分かるし、TPOに応じて、意識的に使うこともできる。
〇それ何?作戦
ある国に行って、普通の人が話す言葉をストックしたいときには、公園など子供が集まるところに行って、紙に絵を書く。子供に見せると必ず「それ何?」って聞いてくる。これで、「それ何?」という言葉を覚えて、次は自分が聴き手になって「それ何?」と聞いて、どんどん単語をストックしていく。
〇パッケージ交渉
本当にクリティカルなイシューは10のうち2~3。「この3つのために、あなたはこれまでできた7つの合意を全部蹴飛ばすわけですね?」「この3つでもめることにそれほど価値があるのですか?」「あなたが欲しがっていた3番目と5番目のイシューも飛びますね」と不利益になることを示唆する。
〇最初の提案は60~70点を目指す
ほとんど100点に近いものを作ってしまうと、相手は、「いや確かにいいと思うんだけど、私にも何かインプットさせてよ」という心境になる。荒削りでも「まだ60点くらいなんですけど、こんなこと考えている」と言えば、「もうちょっとこうしたらいい」と相手側も提案の改善に参加できる余地がある。
本書の見どころは、実は細かいテクニックではなく、COP10名古屋議定書採択の舞台裏。議長から「お前、殺すぞ」と言われた最悪の事態から、日本の環境外交市場に刻まれる奇跡の採択までの過程は、垣間見ることができないスゴイ世界でした。
交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から (NHK出版新書)
- 作者: 島田久仁彦
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/10/08
- メディア: 新書
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