MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

仕事の技法(田坂広志)

『仕事の技法』(田坂広志)(◯)

 本書で述べられている「仕事の技法」とは、いかなる仕事にも求められる根幹的技法である、対話の技法のことです。言葉のメッセージによる「表層対話」と、言葉以外のメッセージによる「深層対話」。表層対話の技法に留まらず、深層対話の技法を身につけ、深層対話力を高めることが仕事力を飛躍的に高める。本書は、知性と在り方の第一人者である田坂先生が、「深層対話の技法」「深層対話力」を高めることについてまとめられた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯本書の論点

① なぜ「仕事」の根幹が、「対話」なのか?

②「表層対話」とは、何か?

③「深層対話」とは、何か?

④ なぜ「表層対話」よりも「深層対話」が重要なのか?

⑤「深層対話」の技法とは、何か?

⑥「深層対話力」とは、何か?

⑦ どうすれば、日々の仕事の「反省」を通じて、「深層対話力」が深まるのか?

⑧「深層対話力」を高めると、どのように「仕事力」が高まるのか?

 

◯深層対話の技法

・対話の場面を振り返り、どのような「表層対話」が行われたかだけでなく、どのような「深層対話」が起こったかを振り返るという反省の習慣を持つ。

①相手の心がどう動いたのかを感じ取る

②相手の言葉の奥に、どのような思いがあったのかを振り返る

③こちらがさらにどういう言葉を述べるべきであったのかを考える

④どのようなフォローアップのアクションを取るべきかを考える

・「言葉のメッセージ」だけでなく「言葉以外のメッセージ」を感じ取り、その食い違いに留意する。

・深層対話力に必要な能力(例)

①相手の無言の声に耳を傾ける力

②相手の沈黙や一瞬の間から心の動きを感じ取る力

③相手の言葉の奥にある感情や心境を感じ取る力

④相手の表情や仕草から心の変化を感じ取る力

⑤相手の言葉のニュアンスから細やかな思いを感じ取る力

⑥相手の置かれた状況や立場から、その考えを想像する力

・相手の「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力だけでなく、自分の「言葉以外のメッセージ」から相手に伝わっていくメッセージを自覚する力も必要。

 

◯反省の習慣

・商談や交渉、会議や会合の後には、「直後の反省会」行う。

・「直後の反省会」では、時間の流れに沿って追体験を行う。気になった「顧客の発言」「表情の変化」「心の動き」などを出し合う。

⇨そのため、商談や会議においては、顧客や出席者の表情、仕草、動作に注意する。

⇨複数のメンバーの「複数の視点」による振り返りで、「見落とし」を最小化する。

⇨自分が「何を考えたか」よりも、自分が「何を感じたか」「何が気になったか」を出し合う。論理的に考えるよりも、直観的に感じたことが大切。

追体験の心得

①「相手の視点」で振り返る

②「相手の心の動き」を想像する

 

◯一人で反省会を行う場合の注意点

・一人での反省では、「小さなエゴ」が解釈を誤らせるので留意する。

・小さなエゴとは、「自分正しい」「自分は間違っていない」「自分は優れている」「自分は劣っていない」という心の奥底の叫び。相手の発しているメッセージを、自分の好むように、自分の都合の良いように解釈してしまう。

・「深夜の反省日誌」には、「直後の反省会」では得られない優れた利点がある。

①商談や会議などから時間を経た後、「濾過」されて心に残るものに大切な意味がある。

②反省を明確な文章にすることで、より客観的に、明瞭に、自分の問題や課題が見えてくる。

③同僚との反省会では語れない「自分の心の動き」が書ける。

・より高度な「反省力」を身につけるには、自分の中に「複数の自分」を育て、様々な自分と対話すること。自分に語りかけてくる「もう一人の自分」。小さなエゴの動きを静かに見つめる自分(静かな観察者)。

 

◯操作主義に注意する

・自分の心の中にある「操作主義」に気づくこと。相手を「動かそう」とすることが操作主義ではない。相手に対する敬意を持たず、相手を一人の人間として見つめず、あたかも「物」を動かすように、自分の思うままに操ろうとすることが操作主義。

・操作主義は、必ず見抜かれて、相手の心が離れていく。しかし、操作主義に流される人間は、それが見抜かれていることに気づかない。

 

◯事前の場面想定の技法

・商談や会議での「場面の展開」をあらかじめシミュレーションする。

・事前の場面想定(例)

①先方から誰が参加するのか?

②その参加者、それぞれの職務経歴や性格、問題意識は何か?

③それぞれの参加者から、どのような発言や質問が予想されるか?

④それらの発言や質問に対して、当方は、誰が、どのように対応するか?

⑤全体の会議の流れは、どうなっていくか?

・「事前の場面想定」をしておくことは、事前に「反省の視点」を共有しておくということでもあるので、「事後の反省」も進めやすくなり、「反省の視点」が深くなる。

・「事前の場面想定」をしておくと、商談や会議などにおける「戦略思考」が身につく。

 

◯無意識に相手に伝えているメッセージに気づく

・「時計を見る」という何気ない行為でも、相手に、明確なメッセージを伝えてしまうということを理解すべき。

・「深層対話力」を身につけていくためには、まず、その細やかさを学ぶことが基本。

・真に怖いことは、自分のプロフェッショナルとしての力量や人間力が、相手に見抜かれていることに気がつかないこと。

 

◯優れた深層対話力

・優れた深層対話力の奥には、必ず、優れた人間力がある。

・温かい人間力の背後に深い人間感がある。永年の仕事を通じて、多くの人間を見てきたことによる人間観、自分自身の失敗の経験を通じて身につけた人間観。それが、「深層対話力」を支えている。

・「心理学」だけで、相手の心を知ることはできない。「心理」を感じ取る修練だけが、それを可能にする。「理論」に頼るのではなく、数多くの人間と心で「正対」し、相手の細やかな心の動きを感じ取る、現場での修練を積み重ねていかなければならない。

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