MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

知られざる競争優位(フリードヘルム・シュヴァルツ)

『知られざる競争優位』(フリードヘルム・シュヴァルツ)

 本書は、ネスレ会長でCSV活動を推進したピーター・ブラベック氏についてまとめられています。一般的な伝記とは異なり、著者のコメントは控え、事実やエピソードを収集整理し、読者の想像の余地が残されています。

 ブラベック氏は、登山家でもあり、登山と経営を重ねるように表現されているところが多く、考え方のバックボーンが垣間見れます。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

孔子のことば

 「智を磨くには3つの法あり。第一は内省にしてもっとも高尚なり。第二は経験にしてもっとも苦痛なり。第三は模倣にして最も容易なり」

 クリエイティブな仕事は膨大な情報量やマルチメディア経験からは生まれない。長時間途切れない集中を要する抽象化、分解、再構成の労を惜しまないで初めて可能のなる。登山においてもあわただしさの中で大きな決断をするのは非常に危険。一時の忍耐が不運な事態の大半を阻止してくれるし、少しリラックスすれば、より良い道が見えてくることも多い。

 

〇中国の諺

 「早く行きたいなら一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら皆で行きなさい」

 

老子のことば

 「人は為したことだけでなく、為さなかったことに対しても責任を取らねばならない」

 

〇共通価値の想像(CSV)

・自由を行使し、信頼を築き、責任を取ることができるのは、組織ではなく個人である。経営や企業理念の中心には社員がいなければならない。社員が会社の価値観や理念にコミットし、責任を引き受けなければ、企業は長期的な発展などできない。

・企業はその経済的目標をステークホルダーすべてに持続可能な価値が創造されるよう設定する必要がある。この価値は共に創造しなければならない。唯一の方法は、すべての意志決定を持続可能性と長期目標に基づいて行うこと。企業の真の力は、その規模や事業運営能力ではなく、理念や目標の力にあると確信している。

・国内ウケするパフォーマンスを超えた長期的な視点、持続的で連帯的な考え方や行動が必要。第三世界新興国における国連や多くの多国籍企業の前向きな取り組みを理解し、対等の規準にする代わりに、多くの国の世論はこうした取り組みを無視している。「他国の国民を犠牲にして発展することはできない」。だからこそ、共通価値の想像(CSV)が極めて重要。

ネスレにとって、人々に食糧を供給すること以上に優先されるべき問題はない。食糧危機は今でも先進国の多くの人々には見えない問題だが、このまま持続的で適切な対策を講じなければ、いずれ誰もがその影響に気付くことになる。食糧危機について取り上げ、水の危機との密接な関係を明らかにすることが重要。「今の状態が続けば、水は石油より先になくなる」。

ネスレでは、株主のための価値創造が自分たちの義務だと考えている。私たちは一度も「短期的な価値の増大」という方向に進んでいない。アナリストの圧力に負けず、四半期レポートを発行していない。私たちは株主価値とステークホルダーの価値の間に、長期的展望と健全で持続的な関係を築きたいと考えている。

 

 CSVに関する直接的な記述もありますが、ネスレ会長というポジションにいる方はどのような発想で経営を行っているのか。その価値観がどのような経験をもとに生まれたのか、そうした経営者の考え方を垣間見ることができる一冊でした。

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