『社員をサーフィンに行かせよう』(イヴォン・シュイナード)(◯)
パタゴニアの創業者による事業に対する思いを綴りながら、約60年にわたる事業を振り返った一冊。今年読んだ書籍の中では、かなり上位のおもしろさでした。経営者本としても秀逸です。まず、経営者自身の「好き」を突き詰めるとこういう経営になるのかという尖った部分(これはなかなか真似できない)、そして、環境に対するこだわり・熱意がすごすぎる。これと経営の舵取りをうまく融合させてしまっている経営の仕組みづくり(これも真似できない)。さらには、社風、人事制度など経営にまつわるユニークさ。これは、今年のベスト5入りか?
(印象に残ったところ・・本書より)
◯経営へのスタンス
・パタゴニアは異色な事業のやり方を試す場所だと思ってきた。きっと成功すると思っていたわけではないが、「常識とされている事業のやり方」に興味がなかったのだ。
・パタゴニアは実験的な試みだ。その目的は、「自然の破壊と文明の破壊を避けるために今すぐやめなければならない」と母なる地球の健康に警鐘を鳴らす書籍に書かれていることを実際に行う、である。パタゴニアは常識に挑み、責任あるビジネスの形を提示するための存在だ。
・私は、自分を事業家だと考えないようにしていた。自分はあくまでクライマーであり、サーファーであり、カヤッカーであり、スキーヤーであり、鍛治職人であると思っていた。しているのは、自分や友達が欲しいと思う優れた道具や機能的なウェアを楽しんで作ること。
・階段を1段飛ばしで駆け上がってしまうほどワクワクしながら出社できるようでなければならないし、思い思いの服を着た仲間に囲まれて楽しい仕事をしたい。裸足のやつがいてもいい。仕事時間は柔軟でなければならない。いい波が来たらサーフィンに行きたいし、パウダースノーが降ればスキーに行きたいし、子供が体調を崩したら家で看病してあげたいからだ。仕事と遊びと家族の境目は曖昧にしておきたい。
◯機能と品質
私は「80%」の男を自認している。スポーツでも活動でも、熟練度が80%になるまでは没頭する。そこから先に進むには取り憑かれたような情熱で専門性を高めなければならないが、それは性に合わない。だから80%くらいに達すると未練もなくやめ、全く違う何かを始めてしまう。パタゴニアの製品が多様であるのはこれが理由だろうし、我々のウェアが多機能で応用範囲が広く、成功しているのもこれが理由だろう。
◯企業の成長
ビジネスの拡大は、身の丈を超えるに危険に直面する。アウトドア専門市場に収まらないところまで大きくなりかけた。「最高の道具を作る」というデザイン理念を守れるのか疑問である。世界一のアウトドアウェアを作りたいという願いがナイキ並の規模になれるだろうか。10卓の三つ星フレンチレストランが規模を50卓に拡大したとき、三つ星レベルを保てるものだろうか。両立は可能なのか。私は、1980年代、成長するパタゴニアを見ながらずっと悩んでいた。
◯機能的であるか
機能を基本に据えればデザインがぶれず、優れた製品が生まれる。機能性を追求せずとも見た目の素晴らしい製品は作れるが、それを我々の製品だとは言いたくない。「そんなもの誰が必要とするんだ」とききたくなってしまうからだ。
◯多機能であるか
「知識が増えれば必要なものは減る」「新しい服が必要なことには用心しろと言いたい」。ある活動に合わせてデザインしたのに、他の活動にも驚くほど適した製品となることもある。そういう想定外の用途に使われる可能性も念頭に置いておく。最高の製品というのは、売り方がどうであれ、多機能なものだ。
◯販売促進
常識をひっくり返すような製品の販売促進は、ある意味、簡単だ。競争はないし、いくらでもすごいストーリーが語れるからだ。逆に販売促進が難しい製品があるとすれば、それはたぶん他社製品と大同小異に過ぎないからで、おそらくは製造自体やめたほうがいいと思われる。パタゴニアでは、販売促進について、3つのガイドラインを用意している。
①販売の促進より世間に示唆や教育を与えることを旨とする。
②信用は買うものではなく、勝ち取るものである。口コミで勧めてもらったり、好意的な評価を刊行物に載せてもらったりできれば最高である。
③広告は最後の手段である。なお、出稿する場合はスポーツ専門誌を基本とする。
◯財務会計
パタゴニアは、大きな会社になりたいとは思っていない。なりたいのは優良企業だ。優良企業なら大きいより小さい方がなりやすい。優良企業となるには自制心が必要だ。ある部門を伸ばすためには、どこかの成長を犠牲にしなければならなかったりするからだ。また、この「実験」の限界を意識し、身の丈を超えないように注意することも大事だ。身の丈を早く超えれば超えるほど、我々が理想とする企業が死ぬのも早くなるからだ。
◯福利厚生と働きやすさ
本気のサーファーは、来週火曜日の午後2時にサーフィンをしようなどと予定したりはしない。サーフィンは潮回りが良くていい風が吹き、いい波が立ったら行くものだし、パウダースキーは粉雪が降ったら行くものだ。そして、悔しい思いをしたくなければ、いち早く駆けつける必要がある。そんなことから生まれたのが、「社員をサーフィンに行かせる」フレックスタイム制度だ。やりくりが効くから、自由とスポーツが大好きで画一的な職場を窮屈と感じてしまう大切な社員に仕事を続けてもらえるわけだ。ちなみに、この制度を悪用する人はほとんどいない。
「好き」「得意」とビジネスが結びつくとこんな領域もあるの?とびっくりしてしまう企業です。私もかなりの釣り好きですが、確かに、今は、「来週末は釣りに行こう」とか決めていますが、「この天気なら行きたいな・・」と、残念に思うことはしばしば。世界には、こんな会社があるのか!素晴らしい!!って思ってしまう、すごい企業です。
新版 社員をサーフィンに行かせよう―――パタゴニア経営のすべて
- 作者: イヴォン・シュイナード,井口耕二
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/06/15
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